馬場このみ 29歳 プロデューサー35話
BGM
relations
脚本家
nmcA
投稿日時
2017-12-12 00:25:12

脚本家コメント
第3章「ろーりんぐ〇えっぐ」第6話
【ここまでのお話】
 武道館ライブ後、仮眠をとっていたこのみは5年後の765プロに心だけタイムスリップしていた。自らの身体の変化に戸惑うものの、プロデューサーとして活動することを決意する。
 このみは育から今後の方向性について相談を受け、近しい境遇だったやよいに話をしてみる。その中でこのみは育のこれまでの仕事にヒントがあるのではという考えに至った。

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馬場このみ
「やっぱり育ちゃんの着替えが終わるまで待ったほうが良かったかしら?」
馬場このみ
資料室のモニターの前で唸り続けること15分。時間を有意義に使おうとしたらこのざまである。
馬場このみ
「あー、もう、このページはさっきも来たわよ!まったく、コンピュータのクセに生意気よ!」
馬場このみ
ついつい愚痴が声に出る。自分でも理不尽だなとは分かっているんだけど……。
田中琴葉
「どうかしましたか?大きな声が聞こえてきましたけど」
馬場このみ
「あ、ごめんね、琴葉ちゃん。資料探しに手間取っちゃって。こっちにきてだいぶ経つのにダメね」
田中琴葉
「そんなことないですよ。何が欲しいんですか。お手伝いします」
馬場このみ
琴葉ちゃんに椅子をゆずって、育ちゃんの過去5年分のお仕事リストを出してもらう。
田中琴葉
「こうやって見ると、育ちゃんの仕事の幅ってすごいですね」
馬場このみ
「ホント。ドラマや料理番組はもちろんスポーツにバラエティ、歌にダンスにMCに……」
田中琴葉
「あっ、温泉番組もありますね」
馬場このみ
……女子中学生に何やらせてるのと詳細を見ると、家族で行く足湯特集だった。
馬場このみ
お願いついでに資料のソートも琴葉ちゃんに頼み、私のタブレットに転送してもらう。
馬場このみ
結果としてはドラマと料理番組が多いものの、他との差はそんなに大きくはなかった。
馬場このみ
興味のある仕事は印象に残りやすい。育ちゃんがドラマの仕事が多いと言ったのもそのためだろう。
馬場このみ
ん?ということは、興味のあるドラマの仕事を軸にすればいいってことかしら?
田中琴葉
「ドラマの仕事を軸にって、育ちゃんのですか?」
馬場このみ
どうやら口に出していたらしい。せっかくなので琴葉ちゃんの意見を聞くために、状況を説明する。
田中琴葉
「そうですね……。いいと思います。今の桃子ちゃんとのドラマも好評ですし」
馬場このみ
「琴葉ちゃんから見て育ちゃんの演技はどうなの?」
田中琴葉
「表情がよくて、喜怒哀楽の表現が上手いです。時々育ちゃんじゃないみたいで」
田中琴葉
「特に個性派な相手だと特に輝くんです。私もどちらかというと地味だから羨ましいなって」
馬場このみ
……デストルドー総裁を演じ切った琴葉ちゃんに地味という言葉は似合わないと思うんだけど。
周防桃子
「琴葉さん、ここにいたの?ちょっと油を売りすぎじゃない?」
馬場このみ
入り口から大きなため息とともに呆れた声。琴葉ちゃんが慌ててごめんね、と謝る。
周防桃子
「まぁ、いいけど。それで、何を見てたの」
田中琴葉
「育ちゃんのここ数年のお仕事を、ちょっとね」
周防桃子
育の?と言って桃子ちゃんは私のタブレットを覗く。
田中琴葉
「なんだかお仕事の方向性で悩んでるみたい。どの方面に力を入れればいいかって」
馬場このみ
桃子ちゃんは、じっとモニターを眺めると、突然大きなため息をついて私たちの顔を見た。
周防桃子
「2人とも、育のこと全っ然わかってないよね」
馬場このみ
踏み台に乗っていない桃子ちゃんが急に大きく見える。
周防桃子
「なんで育の仕事のジャンルがバラバラなのか考えた?ただの偶然じゃないんだよ」
馬場このみ
琴葉ちゃんと顔を見合わせて首をひねる。桃子ちゃんは小さく息をついてはっきり言った。
周防桃子
「要するに、育はプロに向いてないってこと」
田中琴葉
「プロにって……、あっ……!」
馬場このみ
琴葉ちゃんが声を上げ、目を見開く。
馬場このみ
ただ、それは桃子ちゃんにではなく、ドアの前でうつろな目をして立ち尽くす少女に対してだった。
馬場このみ
「待って、育ちゃん!」
馬場このみ
強く固いローファーの音が遠ざかる。トビラの前にはお茶のペットボトルが転がっている。
田中琴葉
「プロデューサー、育ちゃんは私が追いかけますから、桃子ちゃんをお願いします」
周防桃子
資料室を出ていく琴葉ちゃんを、訳も分からず眺めていた桃子ちゃんの顔が徐々に青くなっていく。
周防桃子
「……違う」
馬場このみ
一歩、また一歩とよろけるように歩き出す桃子ちゃんの肩を私は両手でつかむ。
馬場このみ
「大丈夫、育ちゃんは話せばわかってくれるから」
周防桃子
「……違うの、育。私が言いたいのは……。そうじゃなくて!」
馬場このみ
桃子ちゃんは私の手を振りほどき走り出そうとするも、足がもつれてその場に倒れこんでしまった。
周防桃子
「……待って、育。……待って!」
周防桃子
今にも泣きだしそうな顔をしているのに、何も流れ出さないぼんやりとした桃子ちゃんの目。
馬場このみ
私は桃子ちゃんをぎゅっと抱きしめ、大丈夫だから、大丈夫だからと何度も繰り返した。

(台詞数: 50)