七尾百合子
私が生まれたのは今から500年程前になる…
七尾百合子
もう家名も忘れたが、吹けば飛ぶ木っ端貴族の娘として生まれた筈だ。
七尾百合子
私はいわゆる箱入り娘で、ほとんど家を出る事無く生きてきた…
七尾百合子
そして、15歳の時、私は王女となった…いや、正確には王女の身代わりになった。
七尾百合子
その日、王女を連れて行くと予告した者がおり、私が王女として代わり生贄になるとの事だ…
七尾百合子
つまり、私という人間は最初から贄として生まれたのであり、その生に意味など無かったのだ
七尾百合子
そして、王女として控える私の前に現れたのは絵に描いたような吸血鬼…
七尾百合子
彼は私が王女では無いと気付いていたようだが、何も言わずに私を連れ去って行った…
七尾百合子
連れ去られて空を飛ぶ時、私は場違いにも大いに興奮していた。
七尾百合子
屋敷の外にすら出なかった私が本でしか聞いたことのないような景色が見えるなんて…!
七尾百合子
このお方なら、私にもっと広い世界を見せてくれるかもしれないと…!
七尾百合子
…だが、その期待はすぐに打ち砕かれた。
七尾百合子
血の契りを終え、吸血鬼として百合の君と言う名を与えられた夜に彼は討伐されたのだ。
七尾百合子
彼は方々から贄として王族や貴族の娘を集めており、討伐されるのは時間の問題だったのだろう…
七尾百合子
私では討伐軍に勝てぬと地下室に押し込まれ、そこで私は主の消滅を感じ取った…
七尾百合子
完全に討伐軍の気配が消えても、私は外に出る気にはなれなかった…
七尾百合子
底知れぬ力を感じた主でさえ滅んだのだ、私などが外で生きていける筈がないと…
七尾百合子
幸いにも地下室には主が魔術で凍らせていた大量の贄が保存されていた。
七尾百合子
その血を少しづつ吸い、眠る事で消耗を抑えれば数万年は命脈を保つ事が可能だろう…
七尾百合子
それ以降、私は1日のほとんどを眠りに当て、目覚めるわずかな時間は本を読む事に使った
七尾百合子
屋敷に篭り、本を読んで外の世界に想いを馳せる…貴族の娘だった頃と同じ生活…
七尾百合子
結局、私は吸血鬼と化しても何も変わらなかったのだ…
七尾百合子
そうして数百年の微睡みを過ごした後、天女と名乗るふざけた女が訪ねて来た
七尾百合子
なんでも5年間だけ人間に転生してアイドルと言う者になれと言うのだ…
七尾百合子
そうすればあなたが思いを馳せる外の世界で想像を越えた冒険ができると言う…
七尾百合子
私は…少し迷った末に承諾した。これを断れば私は消滅するその日までここから出ないだろう…
七尾百合子
罠ならそれでもいい、滅びる事が出来ればそれはそれで違う世界が見れるだろうと…
七尾百合子
…それからの5年は怒涛の日々だった。ここには書ききれない程に
七尾百合子
贄として過ごした15年、微睡みの数百年とは比較すら出来ない程の濃い時間
七尾百合子
少し勇気を出せばこれほど世界は輝いていたのかとずっと驚きっぱなしであった…
七尾百合子
そして約束の5年が経った運命の日、事務員のフリをしていた天女が再び尋ねて来た
七尾百合子
永遠の生を持つ吸血鬼に戻るか、ただの人間としてアイドルを続けるかと…
七尾百合子
私が何の躊躇いも無くアイドルを選んだ時、天女は少し戸惑ったように問うて来た
七尾百合子
今の百合子ちゃんなら吸血鬼のままでも外に出られる、永遠の命を捨てても良いのかと…
七尾百合子
確かにそうだろう、百年も無い人生の内、アイドルでいられる時間は更に短い
七尾百合子
10年も無い時間のために永遠を捨てるのは馬鹿のする事だと私も思う…
七尾百合子
でも、私は馬鹿でいい。世界は俯瞰する物では無く自分が飛び込む物だから…
七尾百合子
永遠の命を取り戻してしまえば、きっとその事を忘れて私は傍観者になってしまう。
七尾百合子
それでは屋敷に篭って外に想いを馳せるのと変わらない、永遠の微睡みでしかないから…
七尾百合子
私は一瞬でいい、私が主役の物語を生きるたいから、永遠は要らないと…!
七尾百合子
…こんな感じで私の正体は伝説の吸血鬼だったって設定はどうでしょうか!?
七尾百合子
えっ?なんでそんな暖かい笑顔で頭を撫でるんですか?ほっぺつままれるより不気味ですよ〜…
(台詞数: 42)