走れ、たい焼き少女!
BGM
vivid color
脚本家
nmcA
投稿日時
2017-12-06 23:44:54

脚本家コメント
345作品目は彼女の作品をって決めていました。

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高山紗代子
『いただきます!』
高山紗代子
立ち上がる白い熱気にためらうことなく、紗代子ちゃんはたい焼きに頭からかぶりつく。
高山紗代子
「いつも思ってるんだけど、走り込みの後にたい焼きってきつくないの?喉乾くでしょ?」
高山紗代子
『大丈夫です!ちゃんとクールダウンしてますから。味わう準備は万端です!』
高山紗代子
そう言って紗代子ちゃんはもう一口頬張り、ほっぺに手を当てゆっくりとかみしめる。
高山紗代子
『今日も最高に美味しいです!これならコンテストでの優勝は間違いなしですね!』
高山紗代子
「もちろん、そのつもりだよ。さて、その言葉のお礼と合格祈願を兼ねて、僕からこれを……」
高山紗代子
『うわぁ、こんなにたくさん!ふふ、今度こそ初ステージを勝ち取ってみせますね!』
高山紗代子
焼きたてのたい焼きを胸の前で抱えて、紗代子ちゃんは満面の笑みを浮かべた。
高山紗代子
「まぁ、紗代子ちゃんの頑張りは毎日見ているから、合格祈願というより前祝いって感じかな」
高山紗代子
『いえ、日々の走り込みは当然の努力です!今の私の課題は体力不足を解消することですから』
高山紗代子
『それに、みんな可愛くて、才能のある子ばかりですから……。もっと努力してもいいぐらいです』
高山紗代子
紗代子ちゃんは食べかけのたい焼きをじっと見ると、弱気な言葉を飲み込むように口に運んだ。
高山紗代子
「……そんな環境でも頑張り続けられる紗代子ちゃんは、本当に凄いよ。だから、大丈夫」
高山紗代子
たい焼きのしっぽをくわえていた紗代子ちゃんは、僕の言葉に目を伏せて照れた笑顔を見せた。
高山紗代子
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高山紗代子
『……ステージ、立てることになりました』
高山紗代子
内容とは裏腹な沈んだ声に硬貨を置く冷たく固い音が混じる。
高山紗代子
僕は何も言わずに冷蔵庫から生地を取り出した。紗代子ちゃんは俯いたまま話を続ける。
高山紗代子
『繰り上げ……だったんです』
高山紗代子
『合格者の一人が劇場の階段で……。それで、私が』
高山紗代子
『オーディションの結果はダメだったのに!それなのに、ステージに立つだなんて……』
高山紗代子
「嬉しくないの?」
高山紗代子
『……っ!嬉しくない、訳じゃないです。でも、それ以上に……』
高山紗代子
冬の冷たい風が紗代子ちゃんの二つ結いを細かく揺らす。
高山紗代子
『……本当に私でいいのかなって』
高山紗代子
たい焼きの生地が焼ける音が僕らの間に響く。
高山紗代子
「……1ついい?オーディションでは最後までやり切ったの?」
高山紗代子
『え……。はい、課題曲はちゃんと踊り切れましたけど』
高山紗代子
「じゃあ、大丈夫だよ」
高山紗代子
『そんな、根拠もない無責任なこと言わないでください!』
高山紗代子
「根拠ならあるさ。踊り切ったということは体力不足を克服したということ」
高山紗代子
「それができた紗代子ちゃんなら実力差ぐらい埋められるはず。まだ、時間はあるんでしょ?」
高山紗代子
紗代子ちゃんが赤くなった目でこちらを見る。僕は冷蔵庫からあんこを取り出した。
高山紗代子
「紗代子ちゃんに良いことを教えよう。たい焼きは食べ方で効果が違うんだ」
高山紗代子
僕は生地にあんこを落として、人差し指を立てた。
高山紗代子
「頭から食べるとテストの成績が良くなる、しっぽから食べると運動神経が良くなる」
高山紗代子
金型をぱたりと畳んでにやりと笑う。
高山紗代子
『ふふっ。まるでシシャモみたいですね』
高山紗代子
「イワシの頭も信心からってやつだよ」
高山紗代子
出来立てのたい焼きを頭から袋に入れて紗代子ちゃんに差し出す。
高山紗代子
「自信を持って。努力を信じてそうすれば紗代子ちゃんは絶対にステージで成功できる」
高山紗代子
両手でたい焼きを手にした紗代子ちゃんは力強くうなずいた。
高山紗代子
「ステージ絶対に見にきてくださいね」と紗代子ちゃんは駆けて行き、僕はその背中に手を振る。
高山紗代子
「……努力を信じて、か」
高山紗代子
コンテストのチラシが目に入る。見栄を張って強がっていた自分がおかしくなって笑ってしまう。
高山紗代子
紗代子ちゃんが公園の反対側でストレッチを始めた。いつもどおり走り込みをやるのだろう。
高山紗代子
「見栄を張ったなら、せめて結果を出さないとね」
高山紗代子
努力が報われるのは、紗代子ちゃんだけの特権じゃない。
高山紗代子
僕はマメだらけの両手で冷蔵庫から新しい生地を取り出し、仕込みを開始した。

(台詞数: 50)