女子、二人並び立てば 第16話『懸橋』
BGM
ココロがかえる場所
脚本家
遠江守(えんしゅう)P
投稿日時
2017-12-02 08:14:55

脚本家コメント
書き次第の更新です。

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四条貴音
…幸せ、でした。
四条貴音
歌の最中に交わし合った想い、その余韻が、体を優しく火照らせています。
四条貴音
桃子の歌は、最強ではなくとも、最善でした。
四条貴音
勝負の場には相応しくなくとも、わたくしと桃子には、最も相応しい選択でした。
四条貴音
桃子…。あなたは、やはり素晴らしい。
四条貴音
これから歩む日々の中で、何度も敗北に躓いたとしても、あなたならばきっと大丈夫です。
四条貴音
強さと優しさを胸に、あなたは誇り高いあなたのまま、必ず頂点に辿り着くことができるでしょう。
四条貴音
…そうと確信した今、わたくしも、覚悟が決まりました。
四条貴音
わたくしは、自分のステージに戻ってきた桃子に目を遣ります。
四条貴音
満面の笑顔で、ファンの声援に応え、手を振り。
四条貴音
顔中にふつふつと汗を沸かせながらも、その笑顔は爽やかで、晴れやかでした。
四条貴音
その最中に、ちらりとわたくしに向けたその目は…。
四条貴音
期待と憧れ、その中に混じる挑戦的なものは、真にあの子らしい強気な光で。
四条貴音
それが、わたくしに最後の一押しをくれたのです。
四条貴音
…これで、すべてが揃いました。
四条貴音
激しさと苛烈さで、極限まで追い詰めた、わたくし自身。
四条貴音
今にもこの身から弾けそうな、桃子への想い。
四条貴音
そして、今や尊敬すら覚える、良き素晴らしき敵へと成長した、桃子。
四条貴音
いずれかひとつが欠けたとしても、これからわたくしが為すことは叶わなかったでしょう。
四条貴音
その幸せに、ただ感謝しながら。
四条貴音
わたくしは、この時の為に用意した最後の仕掛けを、動かしました。
四条貴音
すべてを手にしたわたくしが至るのは、自身でも未知にして未踏の境地となるはずです。
四条貴音
ですから、その前に…。
四条貴音
わたくしは、桃子と最後の時を過ごそうと、思ったのです。
周防桃子
……。
周防桃子
貴音さんが、手をあげた。
周防桃子
まるで、『永遠の花』でこのみさんと風花さんに合図を出した、桃子のように。
周防桃子
これは…貴音さんも、何かを用意していたの?
周防桃子
だけど、ほとんど待つこともなく、それは桃子の目の前に現れていた。
周防桃子
天井から降りてきたのは、鎖で吊り下げられた、細長い板のようなもので。
周防桃子
桃子と貴音さんのステージの両方に、そのはしっこがかかって、ようやくそれが何かわかった。
周防桃子
これは…橋?
周防桃子
そう。まちがいない。だって、貴音さんは…。
周防桃子
その上を、一歩ずつこちらに向かってきているから…!
周防桃子
とつぜんのことに、少しざわついていたファンも、すぐに静かになっていった。
周防桃子
今、少しでも声を出してしまえば、この空気を汚してしまうのではないかと、思っているみたいに。
周防桃子
それくらいに、橋の上を歩いてくる貴音さんは、きれいで、ぴんと張りつめていて。
周防桃子
でも、その顔はとてもおだやかで、やさしい笑みを桃子に向けていた。
周防桃子
貴音さんが、桃子の前に立つ。
周防桃子
いちばん背の低い桃子の顔は、背の高い貴音さんの胸までしかとどかなかったけど。
周防桃子
それでも、顔を上げて、貴音さんの顔を正面から、まっすぐ見つめて。
周防桃子
ああ…何度も見てきた、顔なのに…。
周防桃子
どうして、胸の中から、こんなにも、いろんなものがあふれてくるの…!?
周防桃子
どちらから動いたのかも、わからない。同時だったのかもしれない
周防桃子
手がのびて、強く、おたがいを引きよせて…。
四条貴音
「桃子っ…!よくぞ、よくぞここまで…!」
周防桃子
「貴音さん…。」
周防桃子
桃子と貴音さんは、世界のすべてを置きざりにして、ただ二人で、抱き合っていた。

(台詞数: 48)