周防桃子
桃子を乗せたゴンドラが、オレンジ色の光の中を進んでいく。
周防桃子
光に照らされて見えるのは、男の人も、女の人も、いろいろな格好をした、たくさんの人。
周防桃子
そして、ドームのあっちこっちから向けられる、数えきれないくらいの視線。
周防桃子
みんな、桃子のことを見てくれているんだね。
周防桃子
でも…。どうして、みんなの視線は、こんなにも優しくて、温かいの?
周防桃子
この歌だって、ただ一人の…貴音さんのために歌っているものなのに。
周防桃子
貴音さんなら、わかるのかな…?
四条貴音
…遥か遠くから、桃子の目が私に問いかけていました。
四条貴音
その視線に、わたくしは心の中で答えを返します。
四条貴音
桃子。それは、共感というものです。
四条貴音
恋の歌に、ときめきを覚えるように。勇ましい歌に、元気を貰えるように。
四条貴音
人は、歌に込められたその心に、感じ入り、心動かされるのですよ。
四条貴音
あなたの想いの強さに、これだけ多くの人の心を衝き動かす力があったのでしょう。
周防桃子
桃子の問いかけに答えるように、貴音さんがほほ笑みを返してくれたのが見えた。
周防桃子
ありがとう、貴音さん。桃子は、これでいいんだね。
周防桃子
だったら…もっと!
周防桃子
このドームの、すみっこからすみっこまで、すべての人に!
周防桃子
今日のこと、桃子が歌ったこの歌を、みんながずっと忘れないように!
周防桃子
どこまでも届いて…桃子の歌!
四条貴音
…桃子の歌声は、さらに圧を増し、それなのに、聞く者を優しく包み込みます。
四条貴音
そして、その歌に織り成されている、彼女の切々とした想いが、心に響いてきました。
周防桃子
…桃子はね。最初はどうしようもなくちっぽけで。何もできない自分が、くやしくて…。
周防桃子
でも、そんな桃子に、手を差しのべてくれる人がいたんだ。
周防桃子
貴音さん。やさしくて、きびしくて、ウソのない人で。
周防桃子
桃子に、教えてくれたね。
周防桃子
自分のできること、すべての力で戦えって。ぜったい、あきらめるなって。
周防桃子
だから、桃子はここまで強くなれたんだ…。
四条貴音
ふふっ…。わたくしが何も教えていませんよ。それらは、桃子が自ら学んだものです。
周防桃子
そうかな?でも、これだけは…。
周防桃子
人は、こんなにも誰かのことを、大切に思えるんだって、教えてもらったよ。
四条貴音
そうですね…。わたくしもまた、それをあなたから教えてもらいました。
四条貴音
…思えば、わたくしは、桃子に最初から惹かれていたのかもしれません。
四条貴音
過去の自分を投影して、心の慰めとするならば、ただ優しくすれば良かったのです。
四条貴音
ですが、桃子の中には、そのような手で触れることを許さない、純なものがありました。
四条貴音
それは、誇り高く、不屈で、愛情深いという、桃子の本質。
四条貴音
…その言動を見れば、これまでの人生が幸薄かったものであると、容易に想像はつきます。
四条貴音
子供だから、と。膝を抱えて泣いていても、誰もあなたを責めなかったでしょう。
四条貴音
しかし、あなたは擦り切れた膝を払って、決然と立ち上がりました。
四条貴音
世にある数多の不幸のひとつとして、当然のようにのしかかるものを、食い止めようと。
四条貴音
そのような目に遭いながら、あなたは不幸を免罪符にしませんでした。
四条貴音
他人に厳しかったかもしれませんが、それ以上に自分に厳しく、何より真摯でした。
四条貴音
そして、その小さく空っぽの手を掲げ、歌うのです。『この手で明日を変えてみせる』と。
四条貴音
四条の家に縛られ、同時に拠り所であったわたくしに、その姿は、とても眩しく映ったのです。
四条貴音
おそらくは、その雄姿に惹かれたのは、わたくしや彼女に深く関わってきた者に限った話ではなく。
四条貴音
ファンも、この光景を見ている人たちも、きっと同じ想いでいるのではと、わたくしは思いました。
四条貴音
それを示すように、人々の意志が熱気となって、桃子の周りを渦巻いています。
四条貴音
その様子は、多くの輝きの中にあってなお色褪せぬ恒星と、それを取り巻く銀河の煌めきのようで。
四条貴音
目の当たりにした、わたくしは…。
四条貴音
頭の中にある、小賢しい語彙のすべてを捨てて、ただ思うままに。心のままに、叫んでいたのです。
四条貴音
「ああ…桃子!あなたは、なんと格好良いのでしょう…!」
(台詞数: 50)