みかげわらし
BGM
ハッピ~ エフェクト!
脚本家
nmcA
投稿日時
2018-02-01 22:39:25

脚本家コメント
みかげわらしって知ってますか?
ざしきわらしみたいなものなんですけど。
あ、私は、知りませんでした。
今、作ったので。
伝奇を作るの楽しいです。

コメントを残す
所恵美
「どったの、紗代子」
高山紗代子
あわてて眼鏡をかけ直す私に恵美ちゃんが当然の疑問をぶつける。
高山紗代子
「あ……その」
高山紗代子
私はちらりと横断歩道の向こう側を見る。赤いヒールを履いた女の人が立っている。
所恵美
「ああ、みかげわらしね。いやぁ、あんなにはっきり見たのいつ以来かな」
高山紗代子
両手を組んで懐かしむ恵美ちゃんをよそにさっきの単語を頭の中で反芻する。
高山紗代子
ミカゲワラシ……ミカゲワラシって?
所恵美
「あれ……もしかして紗代子ってみかげわらし見るの、初めて?」
高山紗代子
「うん。影に黒いものが吸い込まれていったけど……。あの黒いのが、みかげわらし?」
所恵美
「そ。まぁ、みかげわらしも元々は人の影らしいんだけどね。座敷わらしは知ってるっしょ?」
高山紗代子
「古い家に住み着く妖怪で遠野物語にも出てくるよね。子どもの形をしてるんだっけ」
所恵美
「さすがだね。座敷わらしが家に憑りつくなら、みかげわらしは人の影に憑りつくんだよ」
高山紗代子
私はもう一度横断歩道の向こう側を見る。
高山紗代子
先ほどみかげわらしが移動した女の人の影をよく見ると、まだ、影がモゴモゴ動いている。
所恵美
「随分と元気のいいみかげわらしだね。あの人、宝くじでも当たるんじゃないかな」
高山紗代子
「みかげわらしって、そんな効果があるの」
所恵美
「座敷わらしみたいなものって言ったっしょ?」
高山紗代子
「そっか、座敷わらしの棲む家は栄えるっていうもんね」
所恵美
「そゆこと。ウチらにも憑りついてくれればこのあとの仕事も上手くいくのになー」
高山紗代子
「そこは自分たちの力で頑張るから達成感があるんだよ」
所恵美
「分かってるって」
高山紗代子
恵美ちゃんがにゃははと笑うと信号が青になった。交差点がとおりゃんせと雑踏で溢れかえる。
高山紗代子
でも……みかげわらし、か。もし私に憑りついてくれたら何が起きるんだろう。
高山紗代子
恵美ちゃんじゃないけど……トップアイドルにいち早くなれるかも。
高山紗代子
そんな空想を広げていると、横断歩道の中程でみかげわらしに憑りつかれた女の人とすれ違った。
高山紗代子
「……っ!?」
高山紗代子
反射的に足が横に動いた。隣を歩いていた恵美ちゃんにぶつかってしまい、軽くよろける。
所恵美
「大丈夫、紗代子?」
高山紗代子
「う、うん……」
高山紗代子
私は辛うじて返事をし、足早に横断歩道を渡り切る。
所恵美
「なになに?なんでそんなに急いでんの?」
高山紗代子
「ねぇ……みかげわらしって座敷わらしみたいなものなんだよね」
所恵美
「そだけど、どうかしたの?」
高山紗代子
「……みかげわらしが離れた人ってどうなるの」
高山紗代子
鳴り響いてたとおりゃんせが止まり、背後は車の音で一杯になった。
所恵美
「……良くないことが起きるらしいね。でも、見たからって紗代子には何も」
高山紗代子
私は大きく首を横に振って、口を開いた。
高山紗代子
「みかげわらしに憑りつかれた女の人が前の人の影をヒールで踏んだの」
高山紗代子
「そしたら、みかげわらしが出てきて女の人の影に入っていって……。そして、」
高山紗代子
「ニヤっと笑って『ごちそうさま』って……」
高山紗代子
気付けば私は自分の両腕を抱えていた。恵美ちゃんは顔を青くしつつ口を開く。
所恵美
「そんなの、聞いたことがないよ。だって、影だよ?奪いうだなんて」
高山紗代子
……影。ううん。もし、みかげわらしがその言葉通りの意味だとすれば、アレは影じゃなくて……。
高山紗代子
「恵美ちゃん、御影ってどういう意味か知ってる」
所恵美
「影のことでしょ?影を丁寧に言って御影」
高山紗代子
「ううん。御影って言葉に影の意味はないの。御影が意味するのは……」
高山紗代子
私が御影の意味を恵美ちゃんに伝えた途端、さっき通ってきた道から叫び声が聞こえてきた。
所恵美
「ねぇ、今のって……まさか」
高山紗代子
私たちは身体の震えを止めることができず、お互いに抱き合う形になった。
高山紗代子
横断歩道の信号が青になる。私たちの周りにはとおりゃんせが鳴り響いていた。

(台詞数: 50)