馬場このみ 29歳 プロデューサー41話
BGM
SING MY SONG
脚本家
nmcA
投稿日時
2018-02-25 15:44:16

脚本家コメント
第3章「ろーりんぐ〇えっぐ」最終話
【ここまでのお話】
 武道館ライブ後、仮眠をとっていたこのみは5年後の765プロに心だけタイムスリップしていた。自らの身体の変化に戸惑うものの、プロデューサーとして活動することを決意する。
 桃子の「育はプロに向いていない」発言を発端として始まった桃子と育のオーディションバトルが終わり、育は自らがプロフェッショナルではなく、抜群のオールラウンダーであることを桃子に告げられ、自分にしかないものがあったことをゆっくりと噛み締めた。
次回、幕間という名の最終回です。

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周防桃子
「あ、プロデューサー。遅かったね」
馬場このみ
「遅かったねって……。私がチーフに頼まれたのって、つい20分前よ!?」
周防桃子
「え?だって、そりゃあ」
周防桃子
そう言うと桃子ちゃんは台本をパラパラとめくり、とあるページを私に見せた
馬場このみ
「えーっと、『セクシー&アダルティキャッツ役……馬場このみ』……!?」
周防桃子
「やられたね」
馬場このみ
にやりと笑う桃子ちゃんをよそに、私はスマホの電話ボタンを力強くタップする。
中谷育
「プロデューサー、お疲れさま。……どうしたの、怖い顔して?」
馬場このみ
「……なんでもないわ」
馬場このみ
コール音しか聞こえないスマホをため息と一緒にバッグへしまい込む。
周防桃子
「まぁ、プロデューサーの出番はまだ先だし、セリフも多くないから大丈夫だよ」
中谷育
「それより、どう、プロデューサー?私の新しい衣装かわいいでしょ?」
中谷育
育ちゃんはくるっと回ってポーズをとる。
中谷育
頭につけた大きなリボンが揺れ、宇宙を彩ったようなスカートがふわりと舞った。
周防桃子
「なんてたって、育は私とのダブルヒロインだからね!これぐらいかわいくないと!」
中谷育
「なんで、桃子ちゃんが得意気なの?」
周防桃子
育ちゃんが笑うと、桃子ちゃんが顔を逸らす。
中谷育
監督が育ちゃんを呼んだ。育ちゃんは現場に響き渡る大きな声で返事をして駆けていく。
周防桃子
「で、どうするの。育にはまだ言ってないんでしょ、オーディションのこと」
周防桃子
育ちゃんに手を振る私の隣で桃子ちゃんがぼそりと呟いた。
馬場このみ
先日行った桃子ちゃんと育ちゃんのオーディション、アレは偽物だ。
馬場このみ
桃子ちゃんの言い分を育ちゃんに聞き入れてもらうためにみんなで一芝居打ったわけだが……。
周防桃子
「どうする?例の脚本家先生に舞台台本を作ってもらって、本当に舞台やっちゃう?」
馬場このみ
「そんなことできるわけないでしょ!?」
中谷育
「……そんなことってどんなこと?」
周防桃子
「い、育!?」
馬場このみ
「戻ってきてたのね。お、お疲れさま」
中谷育
「どうしたの?2人してひそひそ話なんかしちゃって。もしかして、例の舞台の話?」
馬場このみ
「え、えーっと、そんなところかしら、ね?それより、戻ってきたってことは」
中谷育
「うん!そろそろ撮影始まるって。いこう、桃子ちゃん!」
中谷育
育ちゃんは屈託のない笑顔を残して桃子ちゃんの背中を押す。
馬場このみ
「……ま、舞台の件はそのうち考えるとしましょう」
馬場このみ
カメラの元へ歩いていく2人を眺めつつ、撮影が見やすい場所へ移動する。
馬場このみ
と、私のつま先が何か固いものを蹴った。下を向くと白いものが転がっているのが見える。
馬場このみ
タマゴのようなそれはわずかな勾配を頼りにどんどん進み、やがて大きな石にぶつかり、止まった。
周防桃子
「えっ……もしかして、エッグ?どうして」
馬場このみ
顔をあげると撮影が始まっていた。敵にやられそうになった桃子ちゃんを育ちゃんが助けるシーン。
中谷育
「うん。私だっていつまでもサポートに回ってるだけじゃイヤだから」
周防桃子
「でも、エッグにミュージックパワーは……」
中谷育
桃子ちゃんの言葉に育ちゃんはジャケットのポケットからタマゴ型の金属を取り出した。
中谷育
「私にミュージックパワーがないなら作るだけ。ピーチほどのパワーは出ないけどね」
周防桃子
「エ、エッグってそんなこともできたの?」
中谷育
目を丸くする桃子ちゃんにウインクをして育ちゃんはこう答えた。
中谷育
「知らなかった?私にできないことなんてないんだよ」
馬場このみ
私は改めて石にぶつかった白い球を見て、そばへと歩みを進める。
馬場このみ
そして、そっと背中を押すように転がした。
中谷育
「行くよ、ピーチ!私たちの力を見せてあげよ!」
馬場このみ
たまごのような白い球が転がっていく。しかし、真球ではないからまっすぐは進まない。
馬場このみ
でも、大丈夫。あらゆる道を進むことで、たまごはどんな道だって進めるようになる。
馬場このみ
そしていつか、世界に一つしかない能力を持って、大きく羽ばたくのだ。

(台詞数: 50)