北沢志保
《カナが1歩、また1歩と私に歩み寄る。カナとは思えないような表情で》
北沢志保
《私はそんなカナへ炎を放つが…身体を掠めたり、足元に着弾はするものの》
北沢志保
《決して直撃には到らない。当てようとしても当たらないのだ》
矢吹可奈
っ!………まだ…まだだよ…!
北沢志保
《脚を掠めた炎にしゃがみ込んだが。すぐに立ち上がり、再び進み始めるカナ》
北沢志保
(…何を…何を恐れているの、私…!相手はカナよ?カナが1人で何が出来るの…!?)
北沢志保
(カナは私がいないと駄目な子…私が護ってあげなきゃいけない子…そんなカナに何を恐れるの…)
矢吹可奈
……………
北沢志保
あ………
北沢志保
《カナがついに…私の前に立った。攻撃すれば外しようの無い距離だ。逃げても間に合うだろう》
北沢志保
《…しかし、私の身体はそのどちらの命令も拒絶し、脚が動かない》
矢吹可奈
…!シホちゃん!
北沢志保
!?
北沢志保
《カナの平手が、私の頬を打つ。勢いも早さも無い平手…痛みなどあるはずもない…なのに》
北沢志保
(どうして…どうして痛いの…?全身が…心が…どうして…?痛みなんて忘れたはずなのに…!)
矢吹可奈
シホちゃん…私、今のシホちゃんなんて…大っっっっっ嫌い!!!
北沢志保
!?!?!?…カ…カナ…?
北沢志保
《その言葉が、私の心の深くに音を立てて突き刺さる》
矢吹可奈
…今のシホちゃんは本当のシホちゃんじゃない…そんなシホちゃん嫌だよ…こんな事やめようよ…
北沢志保
…ダメ…ダメよ…!だって、こうでもしないと、カナの本当の幸せは…両親との再会も…!
矢吹可奈
本当の幸せって何?血の繋がりってそんなに大事なの!?シホちゃんは私と出会いたくなかった!?
北沢志保
そ…そんなわけ無いじゃない!カナはとても大事よ!だからこそ私はこうして…
矢吹可奈
シホちゃんがそんなに苦しまなきゃならない幸せなんていらない!!
北沢志保
!?
矢吹可奈
それに…都合の良いように作り変えた結果が本当の幸せだなんて言えるの…!?
矢吹可奈
…お願い…シホちゃんと会えた事を…無かった事になんてしたくないよ…
北沢志保
《カナの両腕が、私の身体を力無く抱き締める》
矢吹可奈
戻って来て…戻って来てよシホちゃん…不器用だけど…笑顔が素敵で…
矢吹可奈
いつも私の手を引いてくれて…時には背中を押してくれて…色々な事を教えてくれた…
矢吹可奈
…あの優しい…私の大好きなシホちゃんに…私のお母さんに戻ってよぉぉぉ…!!!!
北沢志保
!!!!!!
北沢志保
《カナのその言葉が耳に入った時…マコトに出会った時から私の心から消えていた何かが蘇る》
北沢志保
《大粒の涙を溢してその場に崩れ落ちるカナの姿が、私の涙でゆらゆらと滲む》
北沢志保
…カ………ナ………
北沢志保
《ああ…どうしてこんな簡単な事を勘違いしていたのだろう…私が幸せを願っていたのは…》
北沢志保
《違う世界の、会った事も無い、カナと同じ姿をした誰かじゃなく…カナ…“この”カナなんだ…》
北沢志保
《甘えん坊で泣き虫だけど、誰よりも優しくて、相手の心に寄り添える…目の前のカナだ…》
北沢志保
《気が付けば私は、カナと同じように崩れ落ち…自分でも信じられない量の涙を流していた》
北沢志保
《まるで、今まで我慢していた悲しみ、後悔、罪悪感…それら全てが涙に変わったかのように》
矢吹可奈
シホちゃん…帰ろうよ…一緒に帰ろうよシホちゃん…
北沢志保
……うん………うん…!ごめん…ごめんねカナ…!わた…私…なんて事を…私…!ごめんなさい…!
北沢志保
《自分でもわかるほどの支離滅裂な嗚咽…カナはただひたすら私を抱き締め、それを聞いてくれる》
北沢志保
《カナの身体のあちこちに付いた火傷や切り傷擦り傷が、なおさら私の涙を刺激する》
北沢志保
《護りたかった大事な存在をこんな痛々しい姿に変え、たくさんの命を奪い…私は…最低だ…》
北沢志保
《…お互いに涙が渇れ果てると、赤くなった目を擦ってカナが立ち上がる》
矢吹可奈
…シホちゃん。私…行くね、チハヤちゃんが待ってるから。シホちゃんはここを離れて!
矢吹可奈
私の本当の幸せ…シホちゃんやチハヤちゃん…皆との何気ない日常を守りたいから…私、行くよ
北沢志保
……こんな事言う権利も資格も無いのはわかってるけど…いってらっしゃい…気を付けてね…カナ…
矢吹可奈
…!うん!行ってきます!…お母さん!
北沢志保
《精一杯の笑顔を向け、カナが走り出す。私が、一番護りたかった…眩しい笑顔が…》
(台詞数: 50)