天海春香
「私、いま、とってもプロデューサーさんとの思い出を話したい気分になっちゃいました」
天海春香
「少し、らしくないかもしれないですけど…」
天海春香
「私の昔話、聞いてくれますか?」
天海春香
春香の瞳に映る自分の姿が見える。相変わらず、現実と一緒で疲れ切った酷い表情だ。
天海春香
春香の思い出の中のプロデューサーが、いまの俺なんかと重なりあっていると思うと…
天海春香
なんだかやるせなくて、俺は黙って頷くことしかできなかった。
天海春香
「はじめての即売会は、今日の規模なんかとは、それこそ比べものにならないくらい小さくて…」
天海春香
「スタッフさんとかもいなくて、私たちだけで設営もしましたよね」
天海春香
「手作り感がすっごく満載の即売会でしたけど、今日より立派だったと思います」
天海春香
「だって、自分たちの力ではじめて創り上げたものだったんですから!」
天海春香
「けどやっぱり、当日、CDはまったくといっていいほど売れなくて…」
天海春香
「それもそうですよね…まだ本当に私もプロデューサーさんも駆けだして…」
天海春香
「プロモーションもろくにできていないのに、社長が勇み足でCDを作ったんですから」
天海春香
「でも、やっぱり初めてのCDだから私も嬉しくて、ついついノリノリだったんですけど…」
天海春香
「ただ、結果としてはボロボロで…」
天海春香
トホホ…春香はそんな表情を浮かべている。
天海春香
いま聞かされているこの展開、俺はやっぱり知っているような気がする。
天海春香
事の顛末はきっと…俺がしてあげたようにプロデューサーがCDを買ってあげているんだろうか?
天海春香
「それで結局一枚も売れなくて…私、結構凹んでいたんです」
天海春香
「そうしたら、一枚だけ売れたんです」
天海春香
「それで…その人が私の初めてのファンになってくれました」
天海春香
「きっと、私の事を元気づけようとしてくれただけだとは思うんですけど…」
天海春香
「勘違いですかね?」
天海春香
間違ってはないよ、とは言い出せなかった。
天海春香
「たとえそうだとしても、私、嬉しくて」
天海春香
「それが…それが…」
天海春香
そうか、やっぱりそうなるんだな。
天海春香
P「それが俺か」
天海春香
「はい!」
天海春香
「なんだかんだ、プロデューサーさんはおぼえていてくれるんですね」
天海春香
「ふふっ♪とっても嬉しいです♪」
天海春香
「あれがあったから、きっと…ここまで頑張ってこれたのかもしれません」
天海春香
春香がそんな言葉を吐き出す。同時に、風が彼女の髪をなびかせる。
天海春香
春香の瞳から一粒の雫が風に乗せられて、一瞬だけ宙に舞う。
天海春香
まるでシャボン玉のように、宙に浮いたそれは夕焼けに染められると…
天海春香
その余韻に浸る間も与えずに、弾けて消えた。
天海春香
視界に残るのは、両手を胸に抱き、プロデューサーからの言葉を待つ春香の姿だ。
天海春香
夕焼けを背に、鮮やかな橙色に染められた春香の顔はやけに色っぽく見える。
天海春香
目が合うと、春香はいつものように微笑んでくれる。
天海春香
その仕草に、ドキドキと胸の動悸が止まらなくなっていた。
天海春香
しかし、冷静を装うように、俺は「そうか…」とだけポツリと返事をした。
天海春香
「プロデューサーさんは…」
天海春香
「プロデューサーさんはまだ…私のファンでいてくれていますか?」
(台詞数: 43)