百瀬莉緒
「はい、プロデューサーさん、おみやげ~」
馬場このみ
座ったまま首を後ろに捻ると莉緒ちゃんがビニル袋を掲げていた。
百瀬莉緒
「クランクアップのお祝いよ♪お疲れさま、セクシー&アダルティキャッツさん」
馬場このみ
「ありがと♪えーっと、それじゃあ……」
百瀬莉緒
袋の中をのぞきこもうとしたところで莉緒ちゃんから無理やり小さいプリンを渡される。
馬場このみ
「……私のお祝いなのよね?」
百瀬莉緒
「ちゃんと約束を守ってくれていたなら、こっちをあげたんだけどね?」
百瀬莉緒
莉緒ちゃんはクリームの乗ったプリンのふたを開ける。
馬場このみ
「……もしかして、私が育ちゃんの面倒見てたことを怒ってる?」
百瀬莉緒
「そ・の・と・お・り!」
百瀬莉緒
莉緒ちゃんはクリームを食べきったスプーンを私に突きつけた。
百瀬莉緒
「言ったでしょ?身体を大事にしてって。若いのは心だけなのよ?」
馬場このみ
「ごめんね。ちゃんと反省するわ。でも、収穫もあったのよ」
馬場このみ
私はスプーンを置いて、机のわきによけておいたものを莉緒ちゃんの前に置いた。
百瀬莉緒
「これって、プロデューサーさんが前に言ってた」
馬場このみ
「そう、私と同じ5年前から来た時計よ」
馬場このみ
「ひなたちゃんの悩みを解決したら時計の針が4を指したんだけど……ほら、見て」
百瀬莉緒
「3を指してるわね。これって育ちゃんの」
馬場このみ
私は大きくうなずいた。
馬場このみ
「このまま時計の針が戻って行って12を指したとき、何が起きるのかは分からない」
馬場このみ
「でも、今の手がかりはこれしかない。みんなの悩みを解決していくしかないのよ」
馬場このみ
私は手の中のそれをじっと見つめる。しかし、ぜんまいの音すらしないそれは何も教えてくれない。
百瀬莉緒
「……ちょっと意外だったわ。ずっとこっちにいるものだと思っていたから」
百瀬莉緒
莉緒ちゃんは顔をあげず、プリンを口に運んでいる。
馬場このみ
「……ううん、まだ悩んでる」
馬場このみ
時計を置いて、スプーンを持ちなおす。
馬場このみ
「5年前に戻ってまたアイドルとして活躍したい。だってまだ、トップを獲っていないもの」
馬場このみ
「でも、こっちの世界でみんながどう輝いていくのかそれを見守っていたい気持ちもあるから」
馬場このみ
プリンを口に運ぶ。カラメルの苦みが舌をピリリと刺激した。
百瀬莉緒
「……しょうがないわね、姉さんは」
百瀬莉緒
莉緒ちゃんが空になったカップにスプーンを落とした。
百瀬莉緒
「とことん付き合うわよ。姉さんが後悔しないよう、どっちを選んでもいいように、ね」
馬場このみ
「……うん。ありがと」
馬場このみ
口の中のたまごとバニラの香りが鼻をくすぐった。
百瀬莉緒
「さて、そうなると次は誰の悩みを解決すればいいのかしらね。誰でもいい訳じゃないみたいだし」
馬場このみ
「紗代子ちゃんと百合子ちゃんの時は時計の針は動かなかったものね」
馬場このみ
2人で腕を組んでいると、小鳥ちゃんの電話が鳴った。
百瀬莉緒
「小鳥さんは……ああ、銀行ね。いいわ、私が出るから、プロデューサーさんは座ってて」
馬場このみ
ウインクをして莉緒ちゃんが呼び出しを続ける電話へと駆けていく。
百瀬莉緒
「はい、765プロダ……なに、チーフ?プロデューサーさんならいるわよ。……代わってだって」
馬場このみ
莉緒ちゃんが上げた受話器を受け取る。
馬場このみ
「お疲れさま、チーフ。どうしたの?もうセクシー&アダルティキャッツはやらない……」
馬場このみ
「……」
馬場このみ
「はああああああああ??」
百瀬莉緒
目の前の莉緒ちゃんが飛び上がって、こちらを見た。
馬場このみ
「わ、わかった。とりあえず、事務所で待ってるから。うん、小鳥ちゃんにも伝える」
馬場このみ
私は震える手で受話器を置き、莉緒ちゃんに見開いたままの目を向ける。
百瀬莉緒
「ど、どうしたの、姉さん?」
馬場このみ
「お、落ち着いて聞いてね。あのね、美奈子ちゃんがね……」
馬場このみ
「……結婚するって」
(台詞数: 50)