クロス・カウンター
脚本家
nmcA
投稿日時
2019-04-24 22:40:25

脚本家コメント
この作品で一番気にいっているのはタイトルです。

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最上静香
窓際の席に座るジュリアさんを見て、何かおかしい気がした。
最上静香
ジュリアさんがじっとカップを見ているから?いや、それだけじゃないような気がする。
最上静香
店員に声をかけられる。私は紅茶を頼んでジュリアさんの元へ歩みを進めた。
ジュリア
「……」
最上静香
ジュリアさんの後ろまで来たが気付く様子はない。彼女のカップの中身は空だった。
最上静香
「お待たせしてすみませんでした」
最上静香
焦った風な声を出してジュリアさんの向かいの席に着く。
ジュリア
「いや、あたしも今来たところだ。急に呼び出して悪かったな」
ジュリア
ジュリアさんは暗い影をさっと隠し、いつものさわやかな笑顔を私に向ける。
ジュリア
「今日はラジオの仕事だったよな。どうだった」
最上静香
「いい感じでした。のり子さんのラジオですから気も楽に持てましたし」
最上静香
運ばれてきた紅茶で口を湿らせ、笑顔で答える。
ジュリア
「奈緒も一緒だしな。2人なら間違いなく盛り上げてくれるから安心出来るよな」
最上静香
そう言ってジュリアさんはカップを持ち上げ、中身が入っていないことに気づき苦笑いする。
最上静香
「それで……お話ってなんですか?」
ジュリア
コーヒーを頼み背中を椅子に預けるジュリアさんに話を振ると、目をそらされた。
ジュリア
「いや、まぁ、たいしたことじゃ……いや、たいしたことではあるんだが」
ジュリア
ジュリアさんは所在なさげに指を動かし、視線を空に動かす。
最上静香
私は紅茶の入ったカップを両手でぎゅっと包み込んで、その様子をかたずをのんで見守る。
ジュリア
「その……あれだ」
最上静香
「……」
ジュリア
「……わりぃ、ちょっと席を外す」
ジュリア
ジュリアさんは急に席を立って、顔の前で手を合わせた。
ジュリア
「戻ったら、ちゃんと話すから」
最上静香
あっけにとられる私を置いて、そのまま化粧室へと消えていった。
最上静香
入れ違いでコーヒーが向かいの席に置かれた。ふぅと息をつくと湯気がふわりと揺れた。
最上静香
ジュリアさんは、私とのコンビの解散を望んでいる。
最上静香
根拠はない。ただ、ここ数週間の彼女の顔に浮かぶ苦悩の表情は間違いなくそう告げていた。
最上静香
解散の理由は聞けば説明してくれるだろう。でも、それは大した問題ではない。
最上静香
ジュリアさんがそうしたいのなら私は止められない。だって2人でひとつのコンビなのだから。
最上静香
窓の外を自転車が走る。少女のスプリングコートの裾が春の風にヒラリと舞う。
最上静香
戻ってきたら、ちゃんと話してくれるだろうか。
最上静香
いや、すぐには話してくれないだろう。きっと別の話ではぐらかされる。
最上静香
いっそ、私から……。それはダメ。だって私が解散したいわけじゃない。でも……。
最上静香
「……」
最上静香
堂々巡りに疲れて大きくため息をつく。
最上静香
結局、私には待つことしかできないのだ。
最上静香
私は目の前の誰もいない椅子を目を細めて眺める。
最上静香
と、その時、私は喫茶店に入った時に覚えた違和感の正体にようやく気づいた。
最上静香
ギターがない。
最上静香
いつもジュリアさんが持ち歩いているギターがないのだ。
最上静香
事務所に置いてきたの?二人でいるときはいつも持ってくるのに。どうして……
最上静香
お冷の氷が溶けて、カランと音を出す。
最上静香
ギターに逃げないために置いてきたのだ。解散について正面から向き合うために。
最上静香
じゃあ、私はどうだ?待つだけなの?仕方ないと大人になるの?
ジュリア
化粧室のドアが開く。ジュリアさんがうつむき加減で現れる。
最上静香
……この期に及んでジュリアさんの前でいい子でいようとするなんてね。
最上静香
私は自嘲気味に笑って、紅茶を飲み干した。
最上静香
ジュリアさんが一歩ずつ近づいてくる。私は机の上で手を組んでじっと彼女を見た。
最上静香
コーヒーの湯気が炎のように揺らめいた気がした。

(台詞数: 50)