佐竹美奈子
以上の観点から、被告人木下ひなたは正当な手順によりスイカ割りに臨んだものであり
佐竹美奈子
検察は被告人にスイカ割り法第3条75項、スイカへの進行方向『右』を求刑致します
馬場このみ
弁護人、反対尋問を
中谷育
美奈子検事、スイカとは一体なんでしょう?
佐竹美奈子
は?
中谷育
こたえてください
佐竹美奈子
スイカは・・・、美味しいですね
中谷育
では、スイカ割りは?
佐竹美奈子
異議あり!裁判長、弁護人の質問は本法廷の論点から逸脱しています
中谷育
裁判長、被告人の動機を推し量るうえで重要な質問です
馬場このみ
異議を却下します
中谷育
こたえてください、美奈子検事
佐竹美奈子
・・・スイカ割りは、楽しいものです
中谷育
そうです。スイカ割りは楽しいです。海水浴のいちばんのお楽しみです
中谷育
もうちょっと左!ああ行きすぎ!そこだよ!
中谷育
割れたスイカをみんなで一緒に食べるとおいしい。大切な思い出になります
中谷育
たとえちょっと変な形に割れてしまったとしても、です
佐竹美奈子
だったら!
中谷育
しかしそれは、スイカを道具としかみていません!
中谷育
美奈子検事、被告人が割ろうとしているスイカがどんなものかご存じですか?
中谷育
あのスイカは、被告人のおじいちゃんとおばあちゃんが送ってくれたものです
中谷育
『夏の暑さも厳しくなってきたから、身体には気を付けてね。みなさんで食べるんだよ』
中谷育
そう手紙がそえられていたそうです
中谷育
たかがスイカひとつ。そう思う人もいるでしょう
中谷育
しかし、そのたかがひとつのスイカを育てるのに大変な苦労がります
中谷育
わたしはさっき被告人席にいるひなたさんを見て気づきました
中谷育
ふるえていたんです
中谷育
目隠しをされてどこにスイカがあるかわからなくてふるえているのだと思いました
中谷育
ほんとうにそうでしょうか?
中谷育
おじいちゃんとおばあちゃんが送ってくれたスイカを割りたくない
中谷育
そう思っているのではないでしょうか?
中谷育
スイカ割りは楽しいです。だからスイカのある右に行く検察の意見はまちがってません
中谷育
スイカが割れた方が、みんな楽しい
中谷育
でもそれは、割りたくないという一人の気持ちを無視できる理由になるのでしょうか?
中谷育
わたしはまだ子どもです。10歳です
中谷育
正直、まだよく分かりません
中谷育
『みんなが』
中谷育
それを理由に『がまん』を、『がんばり』を、したりさせたりする
中谷育
その正義が、わたしにはまだよく分かりません
中谷育
裁判長、裁判員のみなさん。傍聴席にいるみなさんも
中谷育
わたしは弁護士として
中谷育
いいえ、子どもとして
中谷育
このスイカ割りを、被告人を、みなさん大人がどう『正しく』教えるのか
中谷育
それをしっかり見て、大人になります
中谷育
以上です
馬場このみ
・・・・・・判決を、言い渡します
佐竹美奈子
右か・・・
中谷育
左か・・・
馬場このみ
~どっち?~
(台詞数: 49)