あめふり
脚本家
遠江守(えんしゅう)P
投稿日時
2019-08-29 00:07:17
にしやん
2019-08-29 19:47
うーん、エミリーの甘いドラマもありでしゅね(^^)d

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エミリー
鼻をつく鉄の匂い。土瀝青(アスファルト)には黒い点がぽつぽつと。
エミリー
夏の入道さまはとてもきまぐれで、人々は天を恨めしげに仰ぎながら、急ぎ足で駆け抜けていきます。
エミリー
そんな光景とはまったくのあべこべに、私はうきうきとお出かけの支度を。
エミリー
おろしたての黄色の長靴に、こうもり傘を脇に抱えて。
エミリー
お気に入りの傘を広げれば、雨を弾いて、雫がぱっと舞い散ります。
エミリー
ねえ。これから雨がひどくなるのに、どこへ行くの?
エミリー
背中からの声に、私はにっこりとして、答えました。
エミリー
蛇の目でお迎え、です!
エミリー
傘がとんとん、長靴がちゃぷちゃぷ。
エミリー
雨の音楽に乗って、足取り軽く。
エミリー
駅に着いてみれば、目当ての背広姿は、すぐに見つかりました。
エミリー
ちょうど辻待ちの車の、最後の一台が待車場を出たところ。
エミリー
きっと、家路を急ぐ人のために、遠慮して先を譲ったのではないでしょうか。
エミリー
その優しい心が微笑ましく、私のお遊びのような思いつきが、見事に当たったのも嬉しくて。
エミリー
上機嫌で駆け寄った私は、驚くその面前に、こうもり傘を差し出しました。
エミリー
はい、お迎えに上がりましたよ!
エミリー
驚きと笑顔から、笑顔と笑顔に変わった私達の目の端で。
エミリー
じっとこちらを見ていたのは、私より三、四は下の年頃の子。
エミリー
私達と目が合うと、恥じ入るようにうつむいてしまいました。
エミリー
こうもり傘を下ろして、目で問えば、返ってきたのはやわらかな微笑みで。
エミリー
ええ、そうですね。情けは人のためならずと申しますもの。
エミリー
さあ、これをどうぞ。遠慮なさらずに。後で、この先の劇場に返してくれれば良いですから。
エミリー
私達は、こちらの傘に入っていきますので、大丈夫。
エミリー
ふふっ。これで、笑顔が二つから三つになりましたね。
エミリー
帰り道、ひとつ傘の中、二人並び歩いて。
エミリー
傘からはみ出たその左袖に、雨粒が乗るのが見えて、私は自分のしくじりを知りました。
エミリー
お気に入りなどと惜しまずに、男性用のこうもり傘を残して、蛇の目を渡せばよかったと。
エミリー
せっかく迎えに来たのに、これでは。私が少し傘の外に出れば、と足を踏みかえた、その時。
エミリー
左手に傘を持ち替えるや、空いた右手が、私の肩をかいこむようにして。
エミリー
雨から私をかばう、ごつごつして有無を言わさぬ、男の人の大きな手。
エミリー
その優しさに、私はただ頬を熱くして、なすがままになるしかありませんでした。
エミリー
あの。これは少し恥ずかしいです…。
エミリー
体をすぼめながら、跳ねる雨粒を数えていると、とんとんが、ぽつぽつに。
エミリー
そして、音さえ聞こえないほど、小さくなって。
エミリー
足元に差す黒々とした影と、吹きつける熱い風。むわっと広がる緑と土の匂い。
エミリー
どうやら、入道さまは、早くも機嫌を直してしまったようです。
エミリー
突き抜けるような日の光が、蛇の目を電灯の笠のように照らしています。
エミリー
足が止まったその隙に、私はするりと傘の中から抜け出して。
エミリー
はにかむ顔が見えないように、背中越しに、呼びかけるのでした。
エミリー
雨、やみましたね。さあ、今のうちに、早く帰りましょう!

(台詞数: 40)