北沢志保
台風一過の空は、どこまでも青く澄みきって
北沢志保
見渡す限りの、空っぽな、青。
北沢志保
吹き止まない風は生温い湿り気を帯び
北沢志保
髪や服にまとわり付いて、ざわつく心をますます苛立たせる。
矢吹可奈
「ねえ志保ちゃん、おなか空いたよ~」
北沢志保
「だったら、どこか食べに行けばいいじゃない。お疲れ様、また明日。」
矢吹可奈
「ええ~、一緒に食べに行こうよ~」
北沢志保
「嫌よ。お疲れ様、また明日。」
矢吹可奈
「たしかこの辺に、オシャレなカフェがあるんだって!」
矢吹可奈
「お手頃価格で、クーポンも使えるって千鶴さんが言ってた!」
北沢志保
「じゃあ行ってらっしゃい。お疲れ様、また明日。」
矢吹可奈
「志保ちゃん冷たい!氷の女!雪の女王!」
北沢志保
「そうよ、だから私に近付くと霜焼けになるわよ。じゃあお疲れ様、また」
矢吹可奈
「ぶわああああ!風つよ!飛ばされる~!!」
北沢志保
「ちょっと、可奈!落ち着きなさい!パンツ見えてる!」
矢吹可奈
「ひ~ん、今日は散々だよ~。もう泣きそう」
北沢志保
「あなた、しょっちゅう散々で泣きそうになってるじゃない」
矢吹可奈
「……そんなこと無いよ?」
矢吹可奈
「私が泣くのは、志保ちゃんといる時だけだから」
北沢志保
……何それ。
北沢志保
それって、私といる時はまるで
矢吹可奈
「だからさ、志保ちゃんも」
矢吹可奈
「私といる時だけは、泣いてもいいよ」
北沢志保
……………。
矢吹可奈
「さあ志保ちゃん、私の胸の中で思う存分泣きなさい!」
北沢志保
「嫌よ。洗濯板に顔こすり付けて泣くなんて」
矢吹可奈
「志保ちゃんヒドイ!」
北沢志保
絶対にそんな事、するもんか。
北沢志保
私は、空っぽの空を見上げながら
北沢志保
再び歩き出す。
北沢志保
見馴れたはずの空は
北沢志保
なぜか滲んで
北沢志保
見たことのない、青色だった。
(台詞数: 33)