百年
脚本家
瑞名子路
投稿日時
2019-11-04 12:03:43

脚本家コメント
世界に対する純愛信仰です。

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七尾百合子
『もし明日、世界が終わるとしても、私──』
七尾百合子
明くる日の午前12時過ぎ、果たして私は暗闇の中を漂流していた。
七尾百合子
ひと呼吸のうちに、大気の質感が消失していることを悟った。膨らむ肺の感触すらなかった。
七尾百合子
何も見えない実感は不慣れで、危険を感知できないことは途方もなく不安だった。
七尾百合子
けれど、思い出す。私は、見えないものを思い描くのは得意だった。
七尾百合子
だから、歩行をイメージした。そして、彼を探した。
七尾百合子
手を伸ばしていた。感覚が消失した今、両腕が存在するのかも分からなかったけれど。
七尾百合子
それでも、私は空想の力学を願った。この腕で大切なものを抱えられると信じた。
七尾百合子
──ふと、体温に触れた気がした。
七尾百合子
証拠なんてこれっぽっちもないけれど、それは紛れもなく彼の体温だと思った。
七尾百合子
発声は難しい。でも、いつものように「おはようございます」と心の中で語りかけてみる。
七尾百合子
少しずつ彼を知覚できるようになってから、彼の返事はようやく聞こえた。
七尾百合子
そして彼は、私と通じあったことに、きっと微笑んだ。
七尾百合子
彼に接近する。体温が交差して、触れ合いながら、しかし決して混ざり合うことはない。
七尾百合子
不思議と、いつもより彼のことを理解できたような気がした。
七尾百合子
真面目な人だと思う。仕事に対しては真剣で、自分以外の誰かのために本気になれる人。
七尾百合子
優しい人。不器用な人。嘘が下手で、誤魔化し方が拙くて。でも、信頼に足る誠実な人。
七尾百合子
私を見つけてくれた人。
七尾百合子
私を見つけてくれた人。
私を導いてくれた人。
七尾百合子
私を見つけてくれた人。
私を導いてくれた人。
私を認めてくれた人。
七尾百合子
こんな私を、愛してくれた人。
七尾百合子
困難かもしれない。でも伝えたかった。別の時空でまた巡り合うとして、それでも今、ここで。
七尾百合子
『感謝』や『信頼』そして何より──
七尾百合子
彼が口を開いた。奥深くに言葉が流れ込んでくる感触が、とても心地よく響いた。
七尾百合子
【今日を記念日にしよう】
彼は万感の思いを込めてそう言った。
七尾百合子
言葉が満ちると同時に、彼との間に光が揺蕩うのを感じた。
七尾百合子
ゆらめく光は、いつか見た銀鉤のように美しくて、色んな言葉が溢れそうになった。
七尾百合子
彼と私との時間的距離は、永劫なのか刹那なのか測れはしない。
七尾百合子
それでも、私は言葉を紡いだ。
七尾百合子
「……百年待っていて下さい」
七尾百合子
瞬間、彼との距離が、今までの記憶のなかでいちばん精緻に感じられた。
七尾百合子
もっともっと輝きたい、と思った。別の時空でも、またアイドルのお仕事に、行きたい。
七尾百合子
こんな私でも誰かに愛してもらえたように、これからもたくさんの人に光を届けたい。
七尾百合子
そして、いつの日か──
七尾百合子
いつの日か必ず、彼の百年を奪ってみせる。

(台詞数: 35)