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七尾百合子
『もし明日、世界が終わるとしても、私──』
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七尾百合子
明くる日の午前12時過ぎ、果たして私は暗闇の中を漂流していた。
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七尾百合子
ひと呼吸のうちに、大気の質感が消失していることを悟った。膨らむ肺の感触すらなかった。
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七尾百合子
何も見えない実感は不慣れで、危険を感知できないことは途方もなく不安だった。
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七尾百合子
けれど、思い出す。私は、見えないものを思い描くのは得意だった。
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七尾百合子
だから、歩行をイメージした。そして、彼を探した。
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七尾百合子
手を伸ばしていた。感覚が消失した今、両腕が存在するのかも分からなかったけれど。
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七尾百合子
それでも、私は空想の力学を願った。この腕で大切なものを抱えられると信じた。
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七尾百合子
──ふと、体温に触れた気がした。
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七尾百合子
証拠なんてこれっぽっちもないけれど、それは紛れもなく彼の体温だと思った。
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七尾百合子
発声は難しい。でも、いつものように「おはようございます」と心の中で語りかけてみる。
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七尾百合子
少しずつ彼を知覚できるようになってから、彼の返事はようやく聞こえた。
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七尾百合子
そして彼は、私と通じあったことに、きっと微笑んだ。
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七尾百合子
彼に接近する。体温が交差して、触れ合いながら、しかし決して混ざり合うことはない。
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七尾百合子
不思議と、いつもより彼のことを理解できたような気がした。
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七尾百合子
真面目な人だと思う。仕事に対しては真剣で、自分以外の誰かのために本気になれる人。
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七尾百合子
優しい人。不器用な人。嘘が下手で、誤魔化し方が拙くて。でも、信頼に足る誠実な人。
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七尾百合子
私を見つけてくれた人。
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七尾百合子
私を見つけてくれた人。
私を導いてくれた人。
私を導いてくれた人。
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七尾百合子
私を見つけてくれた人。
私を導いてくれた人。
私を認めてくれた人。
私を導いてくれた人。
私を認めてくれた人。
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七尾百合子
こんな私を、愛してくれた人。
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七尾百合子
困難かもしれない。でも伝えたかった。別の時空でまた巡り合うとして、それでも今、ここで。
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七尾百合子
『感謝』や『信頼』そして何より──
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七尾百合子
彼が口を開いた。奥深くに言葉が流れ込んでくる感触が、とても心地よく響いた。
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七尾百合子
【今日を記念日にしよう】
彼は万感の思いを込めてそう言った。
彼は万感の思いを込めてそう言った。
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七尾百合子
言葉が満ちると同時に、彼との間に光が揺蕩うのを感じた。
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七尾百合子
ゆらめく光は、いつか見た銀鉤のように美しくて、色んな言葉が溢れそうになった。
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七尾百合子
彼と私との時間的距離は、永劫なのか刹那なのか測れはしない。
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七尾百合子
それでも、私は言葉を紡いだ。
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七尾百合子
「……百年待っていて下さい」
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七尾百合子
瞬間、彼との距離が、今までの記憶のなかでいちばん精緻に感じられた。
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七尾百合子
もっともっと輝きたい、と思った。別の時空でも、またアイドルのお仕事に、行きたい。
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七尾百合子
こんな私でも誰かに愛してもらえたように、これからもたくさんの人に光を届けたい。
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七尾百合子
そして、いつの日か──
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七尾百合子
いつの日か必ず、彼の百年を奪ってみせる。
(台詞数: 35)