水瀬伊織
「もういいわ!こんな家出てってやるわよ!」
水瀬伊織
月も照らす夜遅く、私はそう言葉を吐き捨て家を飛び出した。
水瀬伊織
アイドルとして立派にやってきたつもりだし、事務所の後輩にも慕われるようになったのに。
水瀬伊織
成長した私をいつまでも大人として認めてくれないパパにどうしても耐えられなかったの。
水瀬伊織
でもそんな煮えたぎる思いも、あても無く歩いてると夜の外気ですぐに冷まされたわ。
水瀬伊織
大人になりたい、大人と認められたいのに一番子供っぽい反抗をしちゃった、そんな幼い私
水瀬伊織
夜道を彷徨っていると湧き上がる、不安で寂しくて家に帰りたいっていう、そんな幼い気持ち
水瀬伊織
だけど家族に啖呵を切った手前、そう簡単に戻りたくない戻れない、そんな幼い感情
水瀬伊織
色々な感情がまぜこぜに、でも的確に私を追い詰めていったの。
水瀬伊織
そんなどうしようもない気持ちを載せたため息を吐いた、そんな時だったわ。
秋月律子
「あれ?伊織!?どうしたのこんな遅い時間に?」
水瀬伊織
いかにも仕事帰りな様子の律子と出くわしたの。...それも一番会いたくないタイミングで。
水瀬伊織
事務所の仲間、しかもいつも一緒にいる律子にこんな情けない姿を見られたくない。
水瀬伊織
「...なんでもないわよ、気にしないで」
水瀬伊織
そう言って私は足早に立ち去ろうとした、だけど律子は私の腕をグッと掴んだ。
秋月律子
「伊織、何があったの?」
水瀬伊織
この目は絶対に私を逃がしてくれない目だわ、そう悟った私は家出したことを打ち明けたの。
水瀬伊織
怒られるだろう、笑われるだろう、そう思ってたわ。でも律子は話を聞き終えると
秋月律子
「そっか。じゃあ今から私の家までついてきなさい、どうせ行くあても無いでしょ?」
水瀬伊織
そう言って私を連れて行った。
秋月律子
「...はい、伊織さんは今晩私の家に泊めさせて明日家に帰しますので...」
水瀬伊織
律子の家に着くと、有り合わせだけど、と言いつつご飯と野菜炒めをご馳走してくれたの。
水瀬伊織
身体の芯まで冷え切ったときに食べる暖かい食事ってこんなに美味しいんだって思ったわ。
水瀬伊織
そして私の目の前では律子が私の両親と電話している。
水瀬伊織
電話が終わると、律子は美味しそうにご飯を食べ始める。まるで何事もないかのようにね。
水瀬伊織
けどそんな空気に何となくばつの悪さを感じて思わず口を開いたの。
水瀬伊織
「ねえ、何か言ったりしないの?私家出なんかして律子にも迷惑かけちゃったし...」
秋月律子
「うーん、私も昔同じようなことしたし今の伊織のことあんまり言えないからね」
水瀬伊織
「そうなの?律子もこんなことしたことあったのね、意外だわ。」
秋月律子
「誰だって思春期は来るものよ、私だって例外じゃなかったわ。」
水瀬伊織
それから一緒にご飯を食べながら律子の昔話を聞いたの。
水瀬伊織
あんなに真面目な律子からは予想できない幼いエピソードはとても新鮮だったわ。
水瀬伊織
それからお風呂に入って、律子が用意してくれた布団に籠ると、すぐに眠りについたわ。
水瀬伊織
朝起きると律子が朝食を用意してくれたの。本当に、何から何までお世話になりっぱなしね。
水瀬伊織
「律子、その...色々ありがとう。私もまだまだ子供だったわ。」
秋月律子
「いいのよ、けど昨日みたいに夜遅く出歩いちゃダメだからね。」
水瀬伊織
そう注意した律子はいつもより身近なようで、でもまだ程遠くだな、とも感じたの。
水瀬伊織
そう感じたから、私はずっと抱えてた悩みを律子に投げかけたわ。
水瀬伊織
「ねえ...どうしたら大人になれるの?大人って皆が認めてくれるかしら?」
秋月律子
「うーん、私にも分からないけど、少なくとも大人になりたいって思ってる内はなれないわ」
秋月律子
「けど、大人になりたいって思うことも忘れるくらい一生懸命頑張ってたらね、
秋月律子
いつの間にか大人だねって言われるようになったの、だから伊織もいつか大人になれるわ。」
水瀬伊織
何よそれ、と私は言葉を返したけど、それは私の心の奥底に入って道を照らす光となったの。
水瀬伊織
それから律子の家を後にして、電車とバスに揺られながら家の前まで着いたわ。
水瀬伊織
「大人になりたいってことを忘れるくらい、ね...」
水瀬伊織
今はまだ足りないかもしれない、けどいつの日かきっとなってみせるわ。
水瀬伊織
誰もが憧れる、大人になったスーパーアイドル伊織ちゃんにね。
(台詞数: 47)