北沢志保
弟を世話したり家事をやったりが多いせいだろう。歳の割に大人っぽいね、とよく言われる。
北沢志保
むろんそれぐらいで喜びはしないけど、褒め言葉と思えば悪い気はしない。
北沢志保
アイドルとしてもそれで評価されているのだ、これからもそのままでいいと自分では思う。
北沢志保
……そう。だから、なんでもないように振る舞わなくてはいけない。
北沢志保
本当の大人ならきっと、こんな時に取り乱したりはしないだろうから。
馬場このみ
「お、いたいた。志保ちゃん、探したわよ」
北沢志保
「このみさん。お疲れ様です、何か用ですか」
北沢志保
……私は、この人があまり好きではない。
北沢志保
いつもふざけて大騒ぎして。そのくせ、何かにつけてこちらを子供扱いしてくる。
馬場このみ
「いやぁちょっとね。1人で何たそがれてるのかお姉さん気になっちゃって」
北沢志保
ほらまた。こんなふうにからかってくる大人には絶対になりたくない。
北沢志保
「別に。ただ、次の仕事のことを1人で考えたかっただけですよ、ご心配なく」
北沢志保
だからと言って、大人なら露骨に嫌ったような反応を見せないのが正解だろう。
馬場このみ
「……やっぱりこたえてるみたいね、プロデューサーのさっきの発言」
北沢志保
「……」
馬場このみ
「あの話が出てからの志保ちゃん、ずっと同じ表情よ。まるで、仮面を被ってるみたいに」
北沢志保
「何言ってるんですか。別に、笑ったりも出来ますよ。ほら、こんなふうに」
北沢志保
冷静にならなくては。この人に弱みを見せたって、いいことなんてない。
北沢志保
大人なら。大人ならきっと、こんな時には辛い気持ちを隠して、ごく普通に。
馬場このみ
「志保ちゃん、それは違うわ。大人でも、ううん大人だからこそ、泣きたい時は泣くものなの」
馬場このみ
「そうしないと、立ち直れなくなってしまう。」
北沢志保
「……」
馬場このみ
「そうやって自分の気持ちに整理をつけて、また前を向くのが本当の大人なの」
北沢志保
……見透かしたような上から目線のお説教。本当に、気に入らない。
北沢志保
けれども悔しいことに、それを待っていたかのように私の目からは涙が溢れてきた。
馬場このみ
「うん……そうやって、ここで悲しさを出し切っちゃいなさい」
馬場このみ
「そしたら、プロデューサーの所に行ってあげて?あなたのこと、とっても心配してたから」
北沢志保
そんなふうに扱わないでください、そんなことされるような年齢じゃありません。
北沢志保
そう言いたかったけど、口からきちんと言葉が出ないまま、私はひたすら泣き続けていた。
北沢志保
こういう時に自分の言いたいことをきちんと言えないなんて、私はまだまた子供なんだ。
北沢志保
少なくとも、ここで私を抱きしめようとしてくれているこの人よりは。
北沢志保
「あの、このみさん?無理しないで下さい。言いにくいんですがその、身長差が……」
馬場このみ
「い、いいの。こういう時に胸を貸すのが、大人のレディなんだから……」
北沢志保
必死につま先立ちしているその姿は、どう見ても大人のレディとは言えなかったけど。
北沢志保
今だけは、この人に甘えてしまおう。
北沢志保
やっぱり私はまだ、子供なんだから。
(台詞数: 36)