ちらり、ひらひら、ちらちら、ひらり
脚本家
nmcA
投稿日時
2021-02-23 00:16:26

脚本家コメント
春の雪はなみだ雪

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宮尾美也
「お~、降ってきましたね~」
高山紗代子
美也さんの声に釣られて顔を上げる。空から白いものがちらりちらりと落ちてくるのが目に入った。
宮尾美也
「こんな季節に雪が見られるなんて、ラッキーですな~」
宮尾美也
そう言って立ち止まると、美也さんは降ってくる雪を両手ですくってにこりと笑った。
宮尾美也
「いっしょにどうですか。楽しいですよ」
高山紗代子
美也さんの笑顔には断れない魔力がある。私も水をすくうように両手を差し出した。
高山紗代子
ふわりふわりと宙を舞う雪は、音を立てることなく私の手のひらに着陸する。
宮尾美也
「紗代子ちゃんはどうして雪が降るんだと思いますか」
高山紗代子
美也さんはときどき唐突だ。そして、つかみどころがない。
高山紗代子
今、いっしょにいるのだって「散歩へ行きましょう」と急に連れ出されたからで。
宮尾美也
「どうですか?」
高山紗代子
……雪が降るのはなぜか。それは上空に冷気があるからだ。
高山紗代子
でも、きっと美也さんはそんなことを言いたいわけではなくて……。
宮尾美也
「私は見せたい景色があるからだと思うんです」
宮尾美也
私の答えを待たずに、美也さんが口を開いた。
宮尾美也
「だって、きれいですから。一面真っ白の雪景色。私が雪さんだったら見せたくなります」
高山紗代子
雪の気持ちになって考える。美也さんらしいなと思う。でも……。
高山紗代子
「この気温じゃ、積もることはできないですね」
高山紗代子
ここは桜並木の遊歩道。季節は春。落ちてきた雪は色を残さず消えていく。
高山紗代子
――あなたは無駄な努力ってものを知らないのかしら――
高山紗代子
リフレインするのはトゲだらけの勝者の嘲笑。
高山紗代子
オーディションが終わって一時間以上経つのに心に刺さったまま抜けてくれない。
宮尾美也
「む~。確かにこれでは雪景色は見られませんね」
高山紗代子
茶色くくすんだ桜の花びらの上に淡い雪が落ちる。
高山紗代子
雪はすぐには溶けなかった。まるで次の雪が落ちてくるのを待つかのように粘っていた。
高山紗代子
しかし、新たな雪が来る前に水となり、茶色い地面へと流れていった。
高山紗代子
「……」
宮尾美也
「おー、分かりましたよ」
宮尾美也
おっとりとした声で美也さんが手を叩く。そしてうつむいたままの私の肩をぽんぽんと叩いた。
高山紗代子
私は顔を上げて美也さんの指さす先を見た。
高山紗代子
……
高山紗代子
……白桃色の、風が吹いていた。
宮尾美也
「冬ではこの景色は見れませんからな~。素敵なコラボレーションです」
高山紗代子
私は美也さんの言葉に口を開けたままうなずいた。
宮尾美也
「雪さんはこの景色を見せるために春に降ってきたんですね」
高山紗代子
つまり、雪は積もるためじゃなくて、桜とともに舞うために降ってきた。
高山紗代子
ということは、落ちて消える雪は無駄なんかじゃなくて……。
宮尾美也
「落ちて消える雪の分だけ、きれいな景色が見られるわけですな」
宮尾美也
美也さんがにっこりとほほ笑んだ。
高山紗代子
この人は、私の悩みを知っていたのだろうか。だから、急に散歩へ……。
宮尾美也
「そうだ。たい焼き屋さんへ行きませんか。今日は寒いのでおいしいと思うんです」
高山紗代子
……
高山紗代子
……
高山紗代子
「分かりました。私の一番オススメのたい焼き屋さんへお連れしますね」
宮尾美也
「おー、それは楽しみです」
高山紗代子
桜並木の下を二人で歩く。
高山紗代子
白桃色の風は、青空の下で気持ちよく踊っている。
高山紗代子
自分の頭に何かが触れた。私は頭に手をやる。
高山紗代子
落ちてきたのは、桜の花びらに乗った淡い雪だった。

(台詞数: 49)