天海春香
P「はぁ…」
天海春香
夜遅く、カレンダーの日付が変わろうとしている時間帯。最近、帰る時間はずっとこんな感じだ。
天海春香
会社から下宿先に着き、ベッドに腰を下ろす、すると自然と大きな溜息が出てくる。
天海春香
この瞬間、もうなにもかもが終わって真っ白になってしまえばいいのにと…
天海春香
頭の中で自分に呪いを唱えるように、そう呟いてから、数分間、抜け殻の様にぼーっとする。
天海春香
それが日課になっていた。
天海春香
数分後、俺は我に返ると、急いでシャワーを済ませ、翌朝、会社に行くための支度を始める。
天海春香
準備をしていると、封の切られていないゲームのパッケージが視界に入って来る。
天海春香
『アイドルマスター』
天海春香
ファンからはアイマスと呼ばれ親しまれているゲームだ。
天海春香
P「埃被ってる…そういや、まだ買った日のままだったな」
天海春香
前作まではまだ学生だったせいか、寝る間も惜しんでやったものだ。
天海春香
けれど、この新作に関しては、学生時代も終わり、既に社会人になっていたこともあり…
天海春香
買ったはいいものの、忙しさを言い訳に、そのまま放置してしまっていた。
天海春香
ただ、いまさら封を切ってやろうとはとても思えなかった。
天海春香
たとえこれが、学生時代、あれだけ情熱を注いだものだとしてもだ。
天海春香
とはいえ、その情熱が仕事に向かっているわけではない。
天海春香
毎日夜遅くまで休むことなく働き詰めで、寧ろ辟易としていた。
天海春香
そんな鬱屈な日々がこれからも続いていき、そんな社会の色に染まっていくのだとしたら…
天海春香
いっそこの世から消えてしまいたいと思える程に、心も身体も、悲鳴をあげ、限界を迎えていた。
天海春香
パッケージにはゲーム内に登場するアイドル達がプリントされている。
天海春香
そこに写っている女の子達はみんな、俺にとっては懐かしく感じる。
天海春香
まるで青春を謳歌した仲間の様な感じだ。ただ、もう1年以上はコミュニケーションをしていない。
天海春香
彼女たちの瞳にいまの俺は、どんな風に映るだろうか…。
天海春香
正確には、彼女達は画面の中にいて、見えるはずもないけれど…
天海春香
もし、対面で会う事ができるとしたら、たぶん醜く映るだろう。それこそ負け犬にみたいに…
天海春香
P「春香…」
天海春香
パッケージに写された"天海春香"という登場人物と目が合うと俺は…
天海春香
「教えてくれ」と呟き懇願していた…
天海春香
俺はそのままベッドにもたれかかると、封を切ることもなく、暫くパッケージを見つめたまま…
天海春香
当時の思い出に浸っていた。
天海春香
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天海春香
「……さん、起きてください!」
天海春香
貴重な睡眠時間だ、ただでさえ少ないのに、ほっといてくれ。
天海春香
P「あと五分…」
天海春香
「あと五分じゃないですよ~…もうそろそろ行かないといけないんですから…」
天海春香
困ったような声で、そう言うと、声の主は俺を揺り起こそうと試みていた。
天海春香
「ほら起きてください」と言わんばかりに身体が大きく揺さぶられている。
天海春香
そういえば昨日、あのまま寝落ちしていたらしい、まだアラームも鳴っていないし。
天海春香
せっかくだし一度起きて、ちゃんとベッドに横になって一分一秒でも多く目を閉じるべきか。
天海春香
いや、待てよ、待て待て、一人暮らしなのだから、俺を起すような人はいないはずだ。
天海春香
「起きてくださいってば~!!」
天海春香
それなのに、たったいま、現在進行形で俺を起そうと試みる人がいる。
天海春香
不審者か?通報するべきか?
天海春香
いや、それにしては聞き覚えのある声だ。
天海春香
恐る恐る、俺は重い瞼をゆっくりとこじ開ける。
天海春香
「えへへ…やっと起きてくれましたね」
天海春香
「プロデューサーさん」
天海春香
目の前には、トレードマークは頭のリボンという台詞がもっとも似合う少女が立っていた。
天海春香
P「春香っ!!」
(台詞数: 50)