馬場このみ
資料を置くと、会議室の机がみしりと揺れた。
馬場このみ
いや、今はミーティングルームというらしい。大層な名前だけどその名に恥じぬ立派な部屋だ。
馬場このみ
モニターにデータを映せればカッコいいが、せめて、コードの一本ぐらい出ていて欲しいものだ。
馬場このみ
電源ぐらい付けてみようかと、私はモニターの下をごそごそと探り出した。
我那覇響
「……なにしてるんだ、プロデューサー?」
馬場このみ
突然の声に思わず立ち上がる。と同時に、モニターへ頭をぶつけた。
萩原雪歩
「だ、大丈夫ですか?プロデューサー?」
馬場このみ
「だ、大丈夫よ……。2人とも急に来てもらってごめんね」
馬場このみ
痛む頭を押さえて、2人を椅子に座らせる。まったくこれ以上背が縮んだらどうするんだ。
我那覇響
「それで話って言うのは何なんだ?新しいプロデュース方針とか?」
萩原雪歩
「プロデューサーがこのみさんに代わってから、やりやすい仕事が増えた気がしますぅ」
馬場このみ
「あら?そうなの。嬉しいわね」
馬場このみ
「でも、今から話すことはそれとは真逆かもしれないわ。決して嘘じゃないから信じてちょうだい」
馬場このみ
私はこれまでの経緯、心だけ5年前からタイムスリップしたことを話した。
馬場このみ
最初は二人とも信じてくれなかったが、最近の話にことごとく疎い私を見て、理解を示してくれた。
我那覇響
「……大変なことになってたんだな、プロ……このみ」
馬場このみ
「プロデューサーでいいわよ?今は仕事中なんだもの。私がそうお願いしていたんでしょ?」
萩原雪歩
「そうですけど。心だけ未来にくるって独りぼっちじゃないですか。せめて、呼び方ぐらい」
馬場このみ
「そうね。でも、私は元に戻るまでプロデューサーとして働くことに決めたの」
馬場このみ
「だから、これまでどおり仕事の間はプロデューサーって呼んで欲しいの」
我那覇響
「分かった!じゃあ、これからもよろしく、プロデューサー!」
萩原雪歩
「それで、私たちが呼ばれた理由って……」
馬場このみ
「ちょっと2人に手伝って欲しいことがあって。これを見てちょうだい」
我那覇響
「……これってプロデューサーの担当アイドル表?」
馬場このみ
「さっきも言ったとおり、私はこっちのことが全く分からない。そこでみんなの状況を知りたいの」
馬場このみ
「2人とも私の担当アイドルでしょ?私が担当している他の子のことも詳しいんじゃないかなって」
萩原雪歩
「そういうことでしたら、精一杯お手伝いしますね」
我那覇響
「えーっと、百合子、紗代子、恵美、可奈、静香、瑞希、奈緒、ロコ、昴か」
萩原雪歩
「この中だと、瑞希ちゃん、奈緒ちゃん、昴ちゃんは順調だね」
我那覇響
「うん。半年ぐらい流行がダンスから変わってないからね」
馬場このみ
流行はダンス。私はノートにペンを走らせる。
我那覇響
「んー……ロコは自分の道を突き進んでるし、恵美もファッション関係で安定してるしなぁ」
我那覇響
「可奈は子供向け番組でレギュラーだし、静香はツアーが入ってる。百合子と紗代子は……」
萩原雪歩
「あっ、今、大変なのは百合子ちゃんと紗代子ちゃんかも」
馬場このみ
「百合子ちゃんと紗代子ちゃん?」
萩原雪歩
「はい。今2人でユニットを組んでいるんですけど、壁に当たっているっていうか」
我那覇響
「確かに。悪い意味じゃなくてもう一皮むけそうでむけないって言うか」
馬場このみ
なるほど。とりあえず、2人に当たってみるのが最初のようだ。
馬場このみ
「ありがと。助かったわ!今度、何かおごるわね」
我那覇響
「気にしなくていいって。私もプロデューサーの力になりたいし」
萩原雪歩
「いつでも相談してください!」
馬場このみ
2人を見送って、2人のちょっとした大きな変化に考えを巡らせた。
馬場このみ
響ちゃんは髪をまとめる高さが低くなり、長さが少し短くなった。
馬場このみ
雪歩ちゃんは背が少し高くなったかな。髪も少し伸ばしたようだ。
馬場このみ
でも、私の気にした変化はそこだけじゃない。
馬場このみ
響ちゃんの「一人称」と、雪歩ちゃんから消えた「ネガティブ」
馬場このみ
きっと、この5年の間で色々あったのだろう。
馬場このみ
それを一緒に経験できなかったことは残念だけど、戻ってからの楽しみと考えよう。
馬場このみ
……
馬場このみ
私も随分と楽観的になったものね!
(台詞数: 50)