萩原雪歩
もうすぐバレンタイン。
萩原雪歩
こんな私が男の人の為にチョコレートを作るなんて……夢にも思いませんでした。
萩原雪歩
最初の頃と比べて、手つきは随分と慣れたもの。
萩原雪歩
隣にいる環ちゃんに作り方を教えながらも、スムーズに行程をこなしていきます。
萩原雪歩
いつも同じじゃつまらないよね。
萩原雪歩
今回はビターチョコにしようかな?
萩原雪歩
どうやら私も女の子。なんだかわくわくしてきました。
萩原雪歩
「ふふ、環ちゃん。おいしいって言ってもらえるといいね」
萩原雪歩
甘い匂いに包まれながら、頷き合いました。
萩原雪歩
――そして、当日。仕事終わりの夜のこと。
萩原雪歩
勇気を振り絞って彼の名前を呼びました。
萩原雪歩
手渡しはいつだって緊張します。
萩原雪歩
おいしくなかったらどうしよう。
萩原雪歩
いらないって言われたらどうしよう。
萩原雪歩
無数のネガティブが交錯します。
萩原雪歩
でも、そんな杞憂も忘れさせてくれる程に彼は優しくて。
萩原雪歩
チョコレートの箱ごと私の手を握って「ありがとう」と笑ってくれました。
萩原雪歩
「あ、あの、溶けちゃいますぅ……」
萩原雪歩
耳まで熱くなって、自分でも何を言っているのかわかりませんでした。
萩原雪歩
体温が上がって本当に溶かしかねないと思ったんでしょうか。
萩原雪歩
或いは、私の方が溶けそうだったのかもしれません。
萩原雪歩
ほんの数秒だったのに。
萩原雪歩
……萩原雪歩は男の人が苦手です。
萩原雪歩
紛うことなく真実です。
萩原雪歩
だけど今回は……心の中で決めてました。
萩原雪歩
『いつも同じじゃつまらないよね。』
萩原雪歩
彼を想うなら、私自身が変わらなきゃって!
萩原雪歩
「あの……!」
萩原雪歩
「と、途中まで一緒に帰りませんかっ?」
萩原雪歩
彼の手を取って放った、勇気の一言。
萩原雪歩
少し驚いた彼の表情。
萩原雪歩
それも束の間、彼はまたいつもの笑顔で「いいよ」と返事をくれました。
萩原雪歩
「あ、ありがとうございますぅ!」
萩原雪歩
――前へ進もう。
萩原雪歩
扉を開けて一歩踏み出そう。
萩原雪歩
強く、強く、この冬の風にも負けないくらいに。
萩原雪歩
臆病な私に手を振って、その手は温もりを求めよう。
萩原雪歩
今日はとても幸せな日。
(台詞数: 38)