萩原雪歩
僕は銃弾からその華奢な彼女の身体を守る為
萩原雪歩
咄嗟の判断で、彼女のその身体に覆い被さる様に抱きしめた
水瀬伊織
「えっ」
萩原雪歩
刹那、まるで鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をする彼女
萩原雪歩
だが、今の僕にはこの方法しか思いつけなかった
萩原雪歩
自らが彼女を守る為の盾となる
萩原雪歩
騎士として、出来れば矛にもなりたかったが…
萩原雪歩
しかし、殺戮兵器としてではなく、騎士として死ねるのならば…
萩原雪歩
これも本望なのかもしれないよ
水瀬伊織
「ちょ、ちょっと…」
萩原雪歩
彼女の温もりが、冷えた僕の身体の芯にまで伝わってくる
萩原雪歩
伊織は、こんなにも暖かいのか…
萩原雪歩
ボクとは大違いだね…
萩原雪歩
温もりが、現在の僕に連想させるのは死ぬ間際の恐怖
萩原雪歩
生への渇望
萩原雪歩
だけれども、多くの命を理不尽にも奪ってきたボクに、それを願う権利はないだろう
萩原雪歩
時間がいつもに比べ遅く、長く感じる
萩原雪歩
暗転
萩原雪歩
目を閉じると脳裏に蘇る人々の顔
萩原雪歩
それは、ボクがさんざん奪ってきたモノの顔ではなく
萩原雪歩
僕が守りたくても、守れなかった者
萩原雪歩
ボクが守りたくても、奪ってきた…
萩原雪歩
守れなかった…
萩原雪歩
笑顔
萩原雪歩
シャル「ごめん…」
萩原雪歩
この場にいる誰に言うつもりでもない、そんな言葉が無意識の内に口から零れる
萩原雪歩
そして、今一度彼女の身体を力強く、ギュッと抱き締め直す
水瀬伊織
「・・・」
萩原雪歩
僕の死への覚悟を、最期の言葉を受け入れたのか、彼女は何も言わずに、委ねる様に顔を埋める
萩原雪歩
パーーーーーーン
萩原雪歩
何かが宙で破裂した音が、背中の方から聞こえてくる
萩原雪歩
それが意味していたのは、放たれた弾が僕に命中していないということだった
萩原雪歩
「ふぅ…危なかったですぅ」
萩原雪歩
「なんとか弾を狙撃して、相手の弾の軌道を逸らせました」
萩原雪歩
「二人とも、大丈夫ですか!?」
水瀬伊織
「ユキホ!」
水瀬伊織
「まったくもうユキホってば、信じてたんだから!」
萩原雪歩
「後方からの援護射撃は任せてください!」
水瀬伊織
「当たり前じゃない、ユキホは我が37000小隊が誇る随一の狙撃手なんだから!」
萩原雪歩
無線に嬉しそうに言い返す彼女の笑顔、そして近くで聞こえてくる彼女の吐息
萩原雪歩
心臓の鼓動が少し早く…
水瀬伊織
「てか、もういいわよ」
水瀬伊織
「は、離れなさいよ」
萩原雪歩
照れ臭そうに顔を赤らめながら、彼女は僕にそう告げる
萩原雪歩
そして、僕の胸板に手のひらを当てて、それまで触れていた身体を遠ざけようとする
水瀬伊織
「その…」
水瀬伊織
「その…ありがとっ」
萩原雪歩
彼女は、横に顔を向けたまま、僕に顔を合わせるでもなく、謝意の言葉を漏らす
萩原雪歩
上官としての尊厳を保ちたいのか、ただ単に照れを隠したいだけなのか…
萩原雪歩
林檎の様に赤く染まりきった彼女の表情は特別な愛くるしさがあった
(台詞数: 50)