中谷育
雪歩さん!ぶどう、花がだんだん咲いてきたよ。もうすぐ食べられるかな?
萩原雪歩
そうだね。あと2ヶ月くらいで食べごろになると思うよ。その間も、ちゃんとお手入れしないとね。
中谷育
そうなんだ。わたし、早く食べたいのになあ。2ヶ月って長いんだよ。
萩原雪歩
焦ってもいいことは無いよ。今日の作業はこれくらいにして、帰ろっか。
中谷育
……雪歩さん。あっちに人がたおれてるよ!なんだか着飾ってるから、歌手の人かも。
天空橋朋花
……うう……
萩原雪歩
(あれは、ミカエルちゃん……)
萩原雪歩
……ごめんね育ちゃん、ひとりでお家に帰れる?私、この人を送って行くから。
中谷育
こども扱いしないでね。私だって帰ることできるもん。ごはんの用意もしておくよ!
萩原雪歩
うん、じゃあ育ちゃんにお願いするね。また後で。
天空橋朋花
……ずいぶん人の子と馴れ親しんでいるようですね〜、ガブリエル。
萩原雪歩
……その名前は、今は使ってないよ。雪歩、って今は名乗ってる。
天空橋朋花
主より賜った名すら棄てるとは、語るに堕ちたものですね〜。かつては四大天使の座に在ったのに。
萩原雪歩
そうじゃないの。今の私の使命は、人の子として人の世の復興に携わること。
萩原雪歩
人の子なら、人の子の名前を遣うべきだと思ったんだ。神の国に帰る日が来たら、戻すよ。
天空橋朋花
……反逆の罪を負いし者が、許される日が来ると?発想まで人の子のそれに毒されたのですか〜?
天空橋朋花
……もっとも、私も主に背き、輝く翼を召し上げられ追放されました。実に恥ずべきことですが。
萩原雪歩
……いったい何が有ったの、ミカエルちゃん。主の御心に忠実に従ってきた貴女が、どうして?
天空橋朋花
……信じがたいことですが。主は自らの全能性を疑っていらっしゃります。
天空橋朋花
魔とともに人の子らを滅ぼすとお決めになったのに……それを取り消されたばかりか、
天空橋朋花
人の子らが歪もうが堕ちようが、見守ると。自らの創造物に「悪」が混ざっても容認すると。
天空橋朋花
……主こそ全能、主こそ正義。それを思い起こしていただこうと、敢えて剣を向けたつもりでした。
天空橋朋花
……主の元を追われ、さりとて自ら堕天したわけでは無く。当ても無く彷徨う日々ですよ〜。
萩原雪歩
……そうだったんだ。
天空橋朋花
……うふっ。今なら私を罵り打ちのめすことも、憐れみ施しを与えることもできますよ〜。
天空橋朋花
……己の存在意義を奪われた今では、むしろそういう痛みや辛ささえ欲していますから。
萩原雪歩
……あのねミカエルちゃん。主は決して、貴女を棄てたわけでも否定したわけでもないと思うんだ。
萩原雪歩
これも主の思し召し。新たな使命を果たさせるため、ひとたび今までの使命を封じられたんだよ。
萩原雪歩
人の子の国に降り、人の子らと触れ合い、人の子として尽くし、人の子を知ってきなさい、って。
萩原雪歩
主は深謀遠慮。私達の愚考では考え及ばないけど……きっと、これからの「世界」のためだよ。
天空橋朋花
……
天空橋朋花
……まさに愚考。それでは、主が天使を創造した時の御心に、誤りが含まれた、という意味と同じ。
天空橋朋花
それだけでも、主と、主の分身たる天使の完璧性を貶める。その上、天使たる己が愚かだと語ると?
天空橋朋花
……貴女は最早、過去天使で在った心すら喪っている。私は貴女のようには堕ちませんよ〜。
萩原雪歩
そうやって、自分の心の殻に引き籠ることが正しいって思ってるの!?何もしないことが偉いの!?
萩原雪歩
動かせる手を動かさないことが、完璧さなの!?何も感じないよう振る舞うための心なの!?
萩原雪歩
…貴女は滅ぼされたわけじゃない。それはつまり、主は何らかの「為すべき事」を賜ったってこと。
萩原雪歩
……人の子として尽くせというのは私の解釈に過ぎないけど……何も為すな、なんて使命は無い筈。
萩原雪歩
だから、ね。拗ねてないで、何かはしようよ。空っぽになったフリなんてせずに。
天空橋朋花
……
天空橋朋花
……堕ちた者は、他の天使を誘惑する、とはよく言ったものですね〜。
天空橋朋花
私の在り方は、主より賜った、この私自身の心に従って決めます。
天空橋朋花
私が、今の放浪生活を改めるとしても……決して、堕ちた貴女の言葉が契機ではありませんよ〜。
萩原雪歩
……分かったよ。最後に一つだけ言わせて。人の子らに入るなら、人の子らしい名前を名乗って。
萩原雪歩
雪の日に、今の使命を果たすため歩き始めたから……私は「雪歩」って名乗ってる。
天空橋朋花
……虚しい会話はそれで終わりですか。それでは、失礼します。
天空橋朋花
……
天空橋朋花
(……私の為すべきことは、私自身でで見出しますよ〜。それもまた、主の思し召しの一部。)
天空橋朋花
(……いつか、朋たる『雪歩』とともに、天の座に還るのでしょうか。)
天空橋朋花
(それまで、天使に恥じぬよう振る舞うのを、今咲く葡萄の花に誓いますよ。朋花の名として。)
(台詞数: 50)