萩原雪歩
…………主よ
萩原雪歩
私は……人間を殺めました……
萩原雪歩
私は、この手で大切な女性を……殺めました…………
萩原雪歩
思えば私は、幼い時分より酷く臆病な性格でした
萩原雪歩
他人というものが、私には何だかとても恐ろしく思えたのです……
萩原雪歩
私が認識している世界と、他人が認識している世界、私が感じている感覚と、他人が感じている感覚
萩原雪歩
『違う』ということは、私にとって耐え難い恐怖でした……
萩原雪歩
それがいずれ『拒絶』に繋がるということを、無意識の内に知っていたからです
萩原雪歩
楽しそうな会話の輪にさえ、加わることは恐ろしく思えました……
萩原雪歩
私には判らなかったのです……他人に合わせる為の笑い方が……
萩原雪歩
いっそ空気になれたら素敵なのにと、いつも口を閉ざしていました……
萩原雪歩
そんな私に初めて声を掛けてくれたのが、彼女だったのです
萩原雪歩
美しい少女でした……優しい少女でした……
萩原雪歩
月のように柔らかな微笑みが、印象的な少女でした……
萩原雪歩
最初こそ途惑いはしましたが、私はすぐに彼女が好きになりました
萩原雪歩
私は彼女との長い交わりの中から、多くを学びました
萩原雪歩
『違う』ということは『個性』であり、『他人』という存在を『認める』ということ
萩原雪歩
大切なのは『同一であること』ではなく、お互いを『理解し合うこと』なのだと
萩原雪歩
しかし、ある一点において、私と彼女は『違い過ぎて』いたのです……
萩原雪歩
狂おしい愛欲の焔が、身を灼く苦しみを知りました……
萩原雪歩
もう自分ではどうする事も出来ない程、私は『彼女を愛してしまっていた』のです……
萩原雪歩
私は勇気を振り絞り、想いの全てを告白しました
萩原雪歩
しかし、私の想いは彼女に『拒絶』されてしましました……
萩原雪歩
その時の彼女の言葉は、とても哀しいものでした……
萩原雪歩
その決定的な『違い』は、到底『解り合えない』と知りました……
萩原雪歩
そこから先の記憶は、不思議と客観的なものでした
萩原雪歩
泣きながら逃げてゆく彼女を、私が追い駆けていました
萩原雪歩
縺れ合うように石畳を転がる、《性的倒錯性歪曲》の乙女達
萩原雪歩
愛を呪いながら、石段を転がり落ちてゆきました……
萩原雪歩
この歪な心は……この歪な貝殻は……
萩原雪歩
私の紅い真珠は歪んでいるのでしょうか……?
萩原雪歩
誰も赦しが欲しくて告白している訳ではないのです
萩原雪歩
この罪こそが、私と彼女を繋ぐ絆なのですから……
萩原雪歩
この罪だけは、神にさえも赦させはしない……!
菊地真
ならば……私が赦そう……
萩原雪歩
激しい雷鳴 浮かび上がる人影
萩原雪歩
いつの間にか祭壇の奥には『仮面の男』が立っていた
(台詞数: 37)