月光のアンティークショップにて
BGM
月のほとりで
脚本家
親衛隊
投稿日時
2016-12-15 03:26:29

脚本家コメント
長いです。
やよいは喋りません。あしからず。

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高山紗代子
あ……この子、かわいい!
天空橋朋花
おや、お目が高いですね。そちらは、非常に状態の良いビスクドールですよ。
高山紗代子
いいなぁ、欲しいなぁ。値段は……高っ!
天空橋朋花
その子の値段設定には色々と理由がございまして。
高山紗代子
じー。
天空橋朋花
……また、長くなってしまいますが。
高山紗代子
お願いします。
天空橋朋花
では……。
天空橋朋花
この子の製作者は町工場を営んでおりまして、人形の製作や修繕を生業としていました。
天空橋朋花
人形に対して異様なほどの執着を持っており、周囲の方からは疎まれていたそうな。
高山紗代子
大事にされてたんですね。
天空橋朋花
ええ、それはとても。
天空橋朋花
では、この子の眼をよく見ていただけますか?
高山紗代子
──これは……翡翠ですか?
天空橋朋花
ご名答。人形の主は、宝石を惜しげも無く両眼に使用したのですね。
高山紗代子
……。
天空橋朋花
浮かない表情をされてますね。
高山紗代子
あ、いえ……。
高山紗代子
もしかして、人形を宝物の隠し場所に利用した──なんて、要らない邪推をしちゃいまして。
天空橋朋花
ご安心を。このお話には、まだ続きがあります。
天空橋朋花
人形の主は晩年、光を失っていたのです。
高山紗代子
光?
天空橋朋花
見たところ、あなたは左右どちらも健常のようですね。
高山紗代子
あ……。
天空橋朋花
最初は片方だけ。しかし、片方が閉ざされたのなら、もう片方も時間の問題であることは明白。
天空橋朋花
人形作りは緻密な作業です。光なくして完成はありえません。
天空橋朋花
主は、日に日に迫る常闇の跫音を聞きながら、早朝から深夜まで人形と向き合っておりました。
天空橋朋花
この子が……生涯最後の作品だと悟っていたのでしょう。
天空橋朋花
並々ならぬ努力の甲斐あって、人形は人の形を成し、あとは両眼を組み込むだけとなりました。
天空橋朋花
しかし──。
天空橋朋花
最早、主の世界は、この大きな眼球すら捉えることが出来ないほど狭まっていたのです。
天空橋朋花
主は嘆きました。
天空橋朋花
「なりそこない」になってしまうのなら、いっその事、この子と心中した方がマシだ、と。
天空橋朋花
ところが、その時、奇跡が起きたのです。
天空橋朋花
突如、窓から射し込む月光が光量を増し、線となって、アトリエの奥へと道を指し示しました。
天空橋朋花
辛うじて見える光を辿った先には、以前、お金の代わりに客から頂いた翡翠を入れた小箱。
天空橋朋花
主は躊躇なく中身を手に取り、人形の眼に変え、そして遂に、この子は完成したのです。
天空橋朋花
翡翠は丈夫で経年による劣化がなく、人形の命である眼を今日まで保持してくれました。
天空橋朋花
先にも言ったように非常に状態の良い逸品です。ですから、このお値段となった次第でして。
高山紗代子
……店主さん、この子を手放したくないんですね。
天空橋朋花
……何故、そう思うのです?
高山紗代子
あなたが、この子を見る度に見せた表情や髪を撫でる仕草。それに温かい眼差し。
高山紗代子
あれは……家族に対して向けるものですから。
天空橋朋花
……。
天空橋朋花
うふふ。正解です。
天空橋朋花
長い間、共に暮らしていましたから、感情移入してしまったのでしょうね。
高山紗代子
本当に、それだけですか?
天空橋朋花
──そうですね……。
天空橋朋花
では、半分だけ正解……ということにしておきましょう。

(台詞数: 49)