高槻やよい
家から歩いて五分程の、小さな川に架かる橋の下に
高槻やよい
時折私は赴き、時を過ごす。
高槻やよい
普段は、学校仕事が終われば直ぐに帰路に就き、家事や兄弟の面倒見に追われる日々、
高槻やよい
極稀に空白の時間があると、決まって私はそこに赴き、
高槻やよい
葦の葉を寝かせた即席の茣蓙に座り、橋桁に背をもたれ、
高槻やよい
ただ、ぼうっと、時を過ごす。
高槻やよい
川面を優雅に進む鴨の仕草や、
高槻やよい
するりと滑る様に飛ぶ蜻蛉の番いを眺め、
高槻やよい
時に思い出して、橋の裏側を見上げ、
高槻やよい
今年は珍しく燕が巣作りをしていない様だ、
高槻やよい
などと他愛の無い事を逡巡する。
高槻やよい
しかし近頃、此処に来る都度思い出し、思い巡らす言葉がある。
高槻やよい
彼は言った。
高槻やよい
自分は、君の様な暖かい家庭を持つ事は、生涯無いのだろうなあ、と。
高槻やよい
彼が、家庭というものに失敗した過去があるという噂は、事務所の誰に聞いたのだったろうか。
高槻やよい
別段憐憫を覚えた訳でなく、
高槻やよい
ただ、今の私の家族にしても、今後ずっと円満に続く保証など何処にも無く、
高槻やよい
ましてや私自身が、家を出て新しい家庭を築ける保証など何処にも無く、
高槻やよい
例えば、独りで、
高槻やよい
この橋の下で、生涯を閉じる可能性もある訳で、
高槻やよい
そんな事に思いを巡らせながら、
高槻やよい
何故か私の心は冷ややかに、
高槻やよい
川面を伝って来る風の様に涼やかに、
高槻やよい
やす、ぜん、と………。
高槻やよい
「ぅぅー、プロデューサーさーん、ここだけふり仮名がないですー!」
(台詞数: 25)