高木社長
……高校野球の監督とは因果な仕事だ。人間形成を掲げながら、勝利を収めることを優先する。
高木社長
努力やチームワークを重んじるとしながら、結局は能力至上主義でメンバーを選抜する。
高木社長
……だが、そんな大人の事情の中でも、ベンチ入りメンバーに入れたくなる子も、ときに居る。
高木社長
……控え組に割かれた僅かな時間、ユニフォームを泥だらけにして必死に白球を追う、彼女だ。
高木社長
……はっきり言って野球のセンスは感じない。脚や肩に飛び抜けたものも見られない。
高木社長
だが……絶対に上手くなる、レギュラーを掴む、試合に勝つという覇気と向上心は凄まじい。
高木社長
彼女を突き動かすのは何か……長く高校野球に身を置いているからこそ、彼女と話したくなった。
高槻やよい
「……私が必死なのはどうしてか、ですか?」
高槻やよい
「もちろん、野球が上手になって、レギュラーをとって試合に出て、活躍して勝つためです!」
高木社長
「……聞き方が悪かったかな。高槻君は将来、プロに進みたいのかね?」
高木社長
……プロに行くのが目的ではなく、一芸入学や就職推薦を狙っている部員もいるからな。
高槻やよい
「はい!甲子園で活躍して、プロ野球選手になります!」
高槻やよい
「私、中学時代からスカウトさんに注目されてたりしないから、全国大会出場が必要かなーって。」
高木社長
……茨の道だ。この子の才能と能力では、幸運にもプロに成れたとしても、すぐに解雇だろう。
高木社長
「……君の能力では、プロでやっていけるとは思えん。他の進路を考えてもいいかもしれんぞ。」
高槻やよい
「いえ、絶対にプロに成ります!……私の夢を叶えるために!」
高木社長
……夢を叶えるために、プロ野球選手に?メジャーを目指すために日本プロ野球、とかではなく。
高槻やよい
「私、プロ野球選手になって目立ちたいんです。全国の人に知ってもらえるくらい。」
高槻やよい
「そしたら今度は引退して、解説者かタレントになります!元プロ野球選手の肩書を生かして。」
高木社長
……プロが『腰掛け』とは、恐ろしい発想だ。それだけ、テレビの世界に行きたいのか。
高槻やよい
「それで、貯めたお金を遣って大学に行きます!」
高槻やよい
「うちは貧乏なので、自分で学費を払わないと勉強できないし。解説者とかなら時間も作れるし。」
高木社長
「高槻君は結局、勉強したいから、そのために貯金したいから、そのために野球をするのかね?」
高槻やよい
「……いいえ、違います。」
高槻やよい
「大学で政治を学んで、国会議員になるために立候補します!」
高槻やよい
「日本を変えたいんです!だから、大学での学びと、選挙資金と、知名度が必要なんです。」
高槻やよい
「……だから今は、その目的のために、死ぬ気で頑張ってます。」
高木社長
……
高木社長
……能力主義のメンバー選抜でも、覇気と向上心に秀でることを理由に、遣いたくなる選手も居る。
高木社長
……だが私には分からない。純粋な不純な目的意識を持つ彼女を、取り上げるべきか否か。
(台詞数: 30)