高槻やよい
私がアイドルになってから、幾らかの時間が経ちました。
高槻やよい
初めはお仕事もあまりなくて、事務所のお掃除ばかりしていた気がします。
高槻やよい
だから、アイドルのお仕事がどんなことをするのか分かりませんでした…。
高槻やよい
でも…少しずつですけど、アイドルの仕事が増えてきて…
高槻やよい
歌うこと、踊ることが楽しくなって…
高槻やよい
伊織ちゃんや春香さん、事務所のみんなと一緒に頑張るのが嬉しくって。
高槻やよい
あっ!お給料ももらえるようになりました!
高槻やよい
給食費も払えるようになったし、もやし祭りのもやしも増量です。
高槻やよい
かすみたちにもお小遣いをあげられるようになりました。
高槻やよい
もともと私たちは貧乏だけど笑顔の絶えない家族でしたが、今はもっと笑顔が溢れています。
高槻やよい
家族のために頑張る、それが私の幸せ。
高槻やよい
でも…ある時、伊織ちゃんに言われたんです。
高槻やよい
──『ねえ、やよい。あんた家族のことばかりじゃない?』
高槻やよい
──『少しは自分のことも考えてみてもいいんじゃない?』って。
高槻やよい
それと、弟たちにも…。
高槻やよい
──『姉ちゃん。たまには自分の欲しいモノとか買いなよ』
高槻やよい
自分のことを考える?欲しいモノ?
高槻やよい
考えてみても分かりませんでした。
高槻やよい
ただ私は、家族のために頑張る。それだけでよかったですから。
高槻やよい
忙しさの日々の中で、伊織ちゃんたちの言葉はすっかり頭の中から消えていました。
高槻やよい
そんなある日のこと──お仕事からの帰り道。
高槻やよい
急な雨に降られた私は走っていました。
高槻やよい
『うぅ。お天気予報では一日晴れるって言ってたのに…あのゲジマユの人、嘘ばっか…』
高槻やよい
私は商店街の片隅にある雑貨店の前で雨宿りをすることにしました。
高槻やよい
何気なくお店の中を覗いたら、ふと目に留まるものが…
高槻やよい
それは…水玉模様の可愛い、傘でした。
高槻やよい
普通の傘かもしれません。
高槻やよい
でも…普段ビニール傘の私には、とてもキラキラして見えたんです。
高槻やよい
──『たまには自分の欲しいモノとか買いなよ』
高槻やよい
弟たちの言葉が頭をよぎりました。
高槻やよい
『あ、あの…この傘下さい!』
高槻やよい
…そんなに高いものではなかったけど、初めて欲しいモノを買った気がします。
高槻やよい
『ふんふん♪』──すでに雨は上がっていましたが、私は傘を指し続けました。
高槻やよい
…なぜか心が軽くなっていました。
高槻やよい
それはきっと…心の中では気づいてたからだと思います。
高槻やよい
私が家族のために頑張り過ぎることで、かすみたちが負い目を感じていることに…。
高槻やよい
だから帰ったら言うんです──『可愛い傘でしょ』って。
高槻やよい
『いいでしょ』って。
高槻やよい
『♪あめあめ、ふれふれ…』
高槻やよい
私は傘をくるっくるっと回しながら、歌いながら、河川敷を歩き続けます。
高槻やよい
大好きな家族の待つ家へ向かって。
高槻やよい
とびっきりの笑顔を浮かべて。
(台詞数: 42)