所恵美
自分の体がある病室の目の前まで来た。
所恵美
…この病室に入ってしまえば、もう後戻りはできない。する気なんて毛頭ないけれど。
所恵美
…劇場を出るときはあれだけ覚悟を決めてたって言うのに、今、ちょっとビビってる。
所恵美
ははっ…。情けないなぁ、アタシ。
所恵美
ははっ…。情けないなぁ、アタシ…でも、ここでウジウジ躊躇するのもアタシらしくない。
所恵美
……大きく深呼吸をする。
所恵美
大丈夫、アタシを信じよう。プロデューサーが信じてくれたアタシを。
所恵美
…よしっ、と一呼吸おいて、そのまま部屋に入り込む。
菊地真
「死ぬぜぇ…!あたいの姿を見た者はみんな死んじまうぞぉ!!」
所恵美
…えぇー?
菊地真
「必殺、死神ボンバー!」
所恵美
部屋では死神が鎌を振り回していた。その足元には得体のしれないものの残骸が山のように。
所恵美
…部屋、間違えたのかな?いやでも、アタシの体あるし、何なら琴葉とエレナもいるし。
菊地真
「はぁ…。関わっちゃったものは仕方ないけど、あたいの仕事が増えるのはいただけないねぇ…」
所恵美
ハッスルしてたと思ったら、突然溜息と愚痴をこぼし始めた。とりあえず、声をかけてみる。
菊地真
「やあ、思ったより早かったね。てっきり今日の夜頃になると思ってたんだけど」
所恵美
一度決めた覚悟が鈍るのは勘弁だからね。
所恵美
…で、その足元に転がってるよくわからない残骸は何なのさ。
菊地真
「これ?これは君の体を乗っ取ろうとしてた悪霊とかの残滓だよ」
菊地真
「これだけ若くて健康で魂が入ってない体、乗っ取ろうとしない悪霊はまずいないからね」
菊地真
「流石にほっとくのは目覚めが悪いから、護衛してたってわけだよ」
所恵美
…そうだったんだ。ありがとね、死神。
所恵美
…って、尚更早く体に戻んないとヤバいじゃんそれ!!
所恵美
アタシの動揺を察したのか、死神は。
菊地真
「それで、どうするんだい?精神が完全に消失してなければ何度でも願うことはできるけど…」
所恵美
何回もチャンスがあるってのは嬉しいけど、生憎アタシは一発勝負の気持ちで来てる。
菊地真
「そっか。それじゃあ最初で最後の、全力の祈りをささげて見なよ」
菊地真
「無防備な体も、魂も、ボクが守ってあげるからさ」
所恵美
さっきの一騎当千の活躍を見ると、頼りになる言葉だね。
所恵美
アタシは神様に祈るように手を組んで、目を閉じる。
所恵美
瞼の裏に浮かんでくるのは、やっぱり家族や友人、劇場の仲間たちの姿。
所恵美
…前までは、皆を曇った顔にさせたくないって願いばかりだったけど。
所恵美
今、アタシが願うのは違う願い。
所恵美
――皆といっしょにいたい。
所恵美
皆といっしょに笑って、泣いて、バカやって、そうやって楽しく、一緒にいたい。
所恵美
杏奈ともっと話をしたいし、環とも遊ぶ約束した。他にも、いろんな約束がまだ残ってる。
所恵美
それに、アタシはまだまだアイドルを続けていたい。
所恵美
汗だくになりながらレッスンして、皆といっしょにいろんな仕事をして…。
所恵美
ステージの上から、サイリウムの海をまだまだ何回も見たい。ファンの声援が聞きたい。
所恵美
それに、プロデューサーが新しい仕事を用意してくれてるもん。
所恵美
だから、アタシはアタシ自身のために。
所恵美
――元の体に戻りたい!!
(台詞数: 42)