馬場このみ 29歳 プロデューサー11話
BGM
自分REST@RT
脚本家
nmcA
投稿日時
2017-05-20 00:46:47

脚本家コメント
第1章「名ばかりヴィンテージワイン」
【ここまでのお話】
 武道館ライブ後、仮眠をとっていたこのみは5年後の765プロに心だけタイムスリップしていた。自らの身体の変化に戸惑うものの、プロデューサーとして活動することを決意する。
 勢いを落とす紗代子と百合子とのユニット『スピカ』の次のフェスを成功させる策を練るこのみは、レンコン農家への取材をきっかけに、流行を作り出すという作戦を思いつく。初めは渋っていたスピカの二人だったが、このみの説得によりこの作戦で行くことになった。

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馬場このみ
「さぁ、魅せつけてきなさい!」
馬場このみ
届くはずのない声をステージ上でポーズをとる2人へ送る。
馬場このみ
客席から溢れるざわざわとした話声、他のステージから聞こえるMCの声。そろそろいいだろう。
馬場このみ
私はPAさんに目線で合図を送った。
馬場このみ
流れ始める場違いのような鐘の音。そう、一曲目は……
秋月律子
「"HereWeGo!!"……ですか」
馬場このみ
「ええ、鐘の音は遠くまで響くわ。ざわつくフェス会場でも聞いてもらいやすいもの」
水瀬伊織
「ふぅん、そこまで考えて選曲してたのね」
馬場このみ
「あら、伊織ちゃん、客席で見るんじゃなかったの?」
水瀬伊織
「バカ言わないで頂戴!ウルトラアイドルの私が客席になんて行ったら誰も2人を観なくなるわよ」
水瀬伊織
「それに……臨時コーチとはいえ教え子の活躍は舞台袖で見たいじゃない」
馬場このみ
律子ちゃんを見ると首をすくめて笑っている。なによ、と伊織ちゃんがやんわりと嚙みつく。
馬場このみ
程なくしてサビに入った。2人のハモりが客席だけでなく、舞台裏までをも優しく包み込む。
秋月律子
「やっぱりスピカの歌声は映えるわねー。この曲、決してフェス向きじゃないのに」
水瀬伊織
「紗代子の歌が重心となって支えているのが大きいわ。安心して百合子が歌えるもの」
水瀬伊織
「曲のイメージを掴むのも早かったの。すぐに百合子のフォローをしてくれたから助かったわ」
馬場このみ
"GO!!!!"の声とともにサビが終わり、2人がステージの両端へそれぞれ移動する。
秋月律子
「ふぅん……これを考えたのは伊織?歌詞にあわせて2人を君と私に役割を分けたのね」
水瀬伊織
「当然よ、と言いたいところだけど、これは私じゃなくて百合子のアイディアよ」
馬場このみ
ステージ上では紗代子ちゃんと百合子ちゃんが鏡のように向かい合い、手を差し伸べている。
水瀬伊織
「デュオならではの解釈と演出ね。振付師の人と一緒に楽しく振付を考えていたわ」
馬場このみ
ラストのサビが始まる。私の右手が自然と握り拳を作る。指の間がじんわりと湿ってきた。
水瀬伊織
「……2人とも言ってたわよ。アンタがまるで別人みたいになったって」
馬場このみ
「……?そりゃあ、まぁ、中身は24歳なわけだしね」
水瀬伊織
「そっちじゃないわよ!アレよ、瑞希と風花のロケについていったんでしょ?」
秋月律子
「ああ、私がオススメしたやつね。どうです、いい気分転換になったんじゃないですか?」
馬場このみ
「ええ、おかげさまで。貴重な話も聞けたし。って、ごめんなさい。曲が終わるわ」
馬場このみ
二度目の"GO!!!!"が終わり、会場から拍手が起きた。私はすぐにPAさんに合図を送る。
秋月律子
「えっ、間髪入れずに"私はアイドル♡"ですか?」
馬場このみ
「ええ、余韻に浸らせるのはここじゃない。畳みかけるわよ!」
水瀬伊織
「ふふっ、この時間帯にステージに立つ他のグループが可哀そうね」
秋月律子
「ホント、どこもダンスメインで組んでるでしょうから、リズムが狂うでしょうよ、こんなの……」
馬場このみ
ポップなイントロが終わり、特徴的な歌詞が続く。2人はリズミカルに歌いこなしていく。
秋月律子
「このみさん、見てください!観客がこんなに!これはきっといけますよね」
馬場このみ
「当然よ!失敗するつもりでこの場に挑んでないわ。私も、スピカもね」
馬場このみ
あの日、農家のおじさんに教えてもらった言葉が頭の中でリフレインする。
馬場このみ
"成功するのは何かを変えようとする者、自分の道を切り拓こうとする者だ"
馬場このみ
演出も、歌も、流行を作りだすために3人で一から考え直してきた。正直、負ける気はしていない。
馬場このみ
ラストのサビに入る。2人はその声に思いを乗せて、観客席へと解き放つ。
馬場このみ
さぁ……未来のファンを集めて説教しましょう!気付いてない人たちを振り向かせましょう!
馬場このみ
そして……
馬場このみ
ステージ上の2人が客席に向かって魅力ビームを発射し、曲の後奏が空へと消えていく。
馬場このみ
ステージ周辺の空気が、まるで時間が止まったかのように固まる。
馬場このみ
そして、身じろぎしない2人がふっと肩から力を抜くと、会場を大きな拍手が包んだ!
水瀬伊織
「このみ!!」
馬場このみ
ええ!!と返事をして、伊織ちゃんとがっしり握手を交わす。
馬場このみ
場は十分に温まった。あとはボーカルとビジュアルを詰めたスピカのオリジナル曲で披露するだけ。
馬場このみ
想像を膨らませる。紗代子ちゃんが歌う。百合子ちゃんが魅せる。もちろん客席は最高潮!
馬場このみ
……いける!間違いなく、スピカの時代が来る!ふと、振り向くと、そこには姿見が置いてあった。
馬場このみ
私はどう?っと言って、鏡に向かってウインクをした。

(台詞数: 50)