深黒の裏言葉
BGM
ライアー・ルージュ
脚本家
親衛隊
投稿日時
2015-08-23 21:48:34

脚本家コメント
耐えろメンタル。
前作 鼓動
http://m.ip.bn765.com/app/index.php/drama_theater/info/uid/1300000000000031424/seq/387

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北沢志保
「え!?」
北沢志保
思わず声を上げてしまう。
北沢志保
「ごめんなさい。言ってる意味がよく……」
水瀬伊織
「言葉通りよ。なんならもう一度だけ言ってあげる」
水瀬伊織
「あんたに、このお店を、あげるわ」
北沢志保
はっきりと、今度はわざわざ間を区切ってまで告げられた。
北沢志保
「どういう……ことなんですか」
水瀬伊織
「飽きちゃったのよ」
北沢志保
「……っ」
水瀬伊織
「道楽で始めたんだけど、意外とつまらないんだもの。がっかりよね」
北沢志保
「どうして……だって……」
水瀬伊織
「志保……人の感情はね、車輪みたいにくるくる回るものなの」
水瀬伊織
「私だって、最初こそ意気軒昂に夢を追いかけていたのよ」
北沢志保
今のあんたみたいにねと、マドラーの先端が向けられる。
水瀬伊織
「女の子だったら、誰しもこういうものに憧れたりするじゃない?」
北沢志保
違う。
水瀬伊織
「でも興醒めちゃった。どんなに努力しても上手くいかないんだもの」
北沢志保
私が聞きたいのは、そんな譫言じゃない。
水瀬伊織
「……不服そうね。当然か」
北沢志保
カップの中身を一気に飲み干し、店長は尚も饒舌に語り続ける。
水瀬伊織
「あんたが求めてる理由なんて、どれだけ探しても見つからないでしょうけど――」
水瀬伊織
「それっぽい――『その場限り』の物なら、吐いて捨てるほど用意出来るわよ?」
北沢志保
何も応えない。選ばれる言葉に、ただただ嫌悪感だけを覚えていた。
水瀬伊織
「このお店は、もう私に必要ない」
北沢志保
「……っ」
北沢志保
唇を噛み切りそうになる衝動を俯いて必死に堪えた。
水瀬伊織
「でも、壊すのも勿体無いじゃない?」
水瀬伊織
「だから、あんたにあげる事にしたの。大切にして頂戴ね」
北沢志保
屈託のない、いつもの笑顔で言ってのける。
北沢志保
「本気ですか……? それ……」
水瀬伊織
「もちろん」
北沢志保
即答。
北沢志保
「そんな中途半端なら、どうして私を雇ったりしたんですか……?」
北沢志保
縋るような願いを込めて問う。
北沢志保
共に過ごした短い時間。
北沢志保
その中で店長の心に僅かでも、私という欠片が残っているのなら――
北沢志保
嘘だと、言って欲しかった。
水瀬伊織
「――そうね」
水瀬伊織
「ただの気まぐれ、かしら」
北沢志保
「……」
北沢志保
「あなたには失望しました」
北沢志保
終わりを告げる時計の音。
北沢志保
それが空洞になった心に反響して、やたらと胸が痛む。
水瀬伊織
「……そう」
水瀬伊織
「じゃあ、これでお終いね」
北沢志保
そう言って、彼女は私の横を通り過ぎて――
水瀬伊織
「後、よろしく」
水瀬伊織
「……さようなら」
北沢志保
消え入りそうな声だけを残し、深黒の森へと姿を消した。

(台詞数: 49)