北沢志保
今日も深緑いい天気。
北沢志保
鼻歌交じりにテーブルを拭いたなら、まるで新品同様。心も晴れ晴れ。
北沢志保
多分……使ったことがないからだろうけど。
北沢志保
カランカラン――。
北沢志保
静寂を破り、扉が開け放たれた。
北沢志保
「あ、い、いらっしゃいま」
矢吹可奈
「こんにちは〜!」
北沢志保
「……」
矢吹可奈
「ああ! 無言で閉めようとしないで!」
北沢志保
「悪いけど、こう見えても仕事中なの」
矢吹可奈
「こ、この前も仕事中だったような……」
北沢志保
「あれは休憩中だったの」
矢吹可奈
「休憩やけに長くなかった!?」
北沢志保
扉を挟んでの攻防は熾烈を極めた。
矢吹可奈
「わ、私だって今日はこう見えても、お客さんなんだよっ!」
北沢志保
「そうなの?」
矢吹可奈
「72円しか持ってないけど……」
北沢志保
「ありがとうございました」
北沢志保
ばたん。
矢吹可奈
「ひゃあああ! 服! 服挟んでるよ志保ちゃん〜っ!」
北沢志保
まるで断末魔の叫びだ。
北沢志保
「あのね、ここで72円で頼めるものなんて――」
水瀬伊織
「あるわよ」
北沢志保
いつの間にか後ろに店長が立っていた。
北沢志保
「……お、驚かさないでください」
水瀬伊織
「あんたのお友達かしら?」
北沢志保
「え、ええ。まぁ」
水瀬伊織
「そ。なら歓迎するわよ」
水瀬伊織
――――――
矢吹可奈
「矢吹可奈です。この度は危ない所を助けて頂き、ありがとうございます」
北沢志保
3人分の珈琲をテーブルに持って行ってみれば、何やら変な自己紹介をしていた。
水瀬伊織
「可奈ね。私は伊織よ。よろしく」
水瀬伊織
「あんたの友達は店長って呼んでるわ」
矢吹可奈
「て、店長?」
北沢志保
私と店長を交互に見遣る。
水瀬伊織
「なによ?」
矢吹可奈
「い、いえ……」
北沢志保
明らかに面食らっている。
北沢志保
可奈も、まさか彼女が店長だとは思わなかったのだろう。
北沢志保
無理もない。傍から見ればお人形のように可愛らしい女の子だ。
北沢志保
年齢も私たちとそう変わらないだろう。
北沢志保
……あれ?
北沢志保
そういえば私、店長のことを全然知らないような気がする。
水瀬伊織
「……志保。ボーッと突っ立ってないで、早くその珈琲を寄越しなさい」
北沢志保
「あ、すみません」
矢吹可奈
「いい匂い。志保ちゃんの淹れてくれた珈琲、楽しみだな〜!」
水瀬伊織
「はい、72円ね」
北沢志保
「私の淹れる珈琲の価値って……」
水瀬伊織
「勘違いしないで。この数字は『これからに期待』って意味なんだから」
北沢志保
「……はぁ」
(台詞数: 50)