深緑の来訪者
BGM
bitter sweet
脚本家
親衛隊
投稿日時
2015-07-06 21:20:43

脚本家コメント
今日も深緑、染まる橙ゆめほむら。
前作 黒色戦争
http://m.ip.bn765.com/app/index.php/drama_theater/info/uid/1300000000000031424/seq/377

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北沢志保
「火から離して、チェーンをのぼったら、ロートをしっかり差し込む……」
北沢志保
「お湯が上がりきるまでに攪拌。そして、15秒」
北沢志保
細かに留意点を書き込んだメモを見つつ、着実に手順をこなす。
北沢志保
懇切丁寧な教えと勉強の甲斐もあって、最近は器具の扱いにも慣れてきたところだ。
北沢志保
フラスコに珈琲が落ちきって、完成。ロートを外してカップに注ぐ。
北沢志保
「味見、お願いします。店長」
水瀬伊織
「ん」
北沢志保
そっと、カップに口を付ける。
水瀬伊織
「飲んでみなさい」
北沢志保
「……ちょっと薄いかも、です」
水瀬伊織
「火の時間と……そうね、もう少し攪拌を速くした方がいいかもね」
北沢志保
「ダメですね……。もっとしっかりしないと」
水瀬伊織
「あまり気にすることなんてないわ」
水瀬伊織
「これは伊織ちゃんだからこそ、出来る芸当なんだもの♪」
北沢志保
「……」
水瀬伊織
「ま、今のは冗談として……」
北沢志保
店長のパターンが読めてきた気がする。
水瀬伊織
「次第に慣れていくわ。もし難しければ代替品を用意するし」
北沢志保
「代替品?」
水瀬伊織
「そう。もっとシンプルで、美味しく淹れることが出来るのよ」
水瀬伊織
「アレは労力がかかるしね。管理も大変だし。それに壊れやすい上に安くもないの」
北沢志保
溜息をついて、カウンターのサイフォンセットを見遣る。
水瀬伊織
「演出効果やインテリアとしては最適だろうけど……正直、対価が見合わないわ」
北沢志保
「でも、使い続けるということは理由があるんですよね?」
水瀬伊織
「……思い入れがあるのよ」
北沢志保
「思い入れ?」
水瀬伊織
「そうよ」
水瀬伊織
「……」
北沢志保
それ以上、店長は語ろうとしなかった。
北沢志保
失敗した珈琲をちょうど飲み終えたところで、外から来訪者の声が聞こえた。
水瀬伊織
「来たみたいね」
北沢志保
急ぎ足で、裏口へと歩を進める。ゆっくりと扉を開けた。
北沢志保
小さな常連さんだった。
北沢志保
――――――
水瀬伊織
「はーいっ、たーんとお食べ」
水瀬伊織
「……」
水瀬伊織
「たーんとお食べ」
水瀬伊織
「……」
水瀬伊織
「もうっ! なんなのよこの猫。全然食べないじゃない!」
北沢志保
数日前に怪我をして、手当てを受けた黒猫。
北沢志保
あの日以降、こうしてお店を訪ねては、ご飯を食べに来るようになったのだ。
水瀬伊織
「わざわざ取り寄せたのに、なにがいけないのよっ」
北沢志保
「高級なものをあまり食べないって話は聞いたことがありますね」
水瀬伊織
「まったく、庶民の感覚はわからないわね」
北沢志保
猫に庶民などあるのだろうか。……それにしても楽しそうだ。
水瀬伊織
「明日こそ、絶対に食べてもらうんだから」
北沢志保
意気込む店長を見て、どこか笑みがこぼれる私。
北沢志保
深緑が橙に染まっていく頃には、黒猫を囲んで雑談の花が咲いていた。
北沢志保
私はこのお店が好きだ。
北沢志保
いつまでも、こんな日が続いたらいいのに。

(台詞数: 50)