北沢志保
お父さん……。
北沢志保
そう呟いた意識の湖底。
北沢志保
怯える私。そして徐々に迫り来る暗闇。
北沢志保
『ひとりぼっち』
北沢志保
そんな名前の魔物。
北沢志保
恐くなって隣にある手を握った。
北沢志保
誰かも分からない、私よりも少し小さな手。
北沢志保
握り返してくれた、優しい手。
北沢志保
温かかった。
北沢志保
大丈夫。この人なら安心出来る。
北沢志保
安心してまた……眠りに落ちていける。
北沢志保
――――――
北沢志保
ふと目覚めれば見慣れた天井。
北沢志保
扉の小さな隙間から柔らかな光が漏れている。
北沢志保
ホールの……明かり?
北沢志保
店長?
水瀬伊織
あ、起こしちゃったかしら。
北沢志保
いえ、別に。……今日もお店放ってどこへ行ってたんです?
水瀬伊織
ちょっと、ね。色々あるのよ。
北沢志保
そうですか。
水瀬伊織
……訊かないのね。
北沢志保
信じてますから。店長のこと。
水瀬伊織
あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない。
水瀬伊織
そうだ。紅茶でも如何かしら?
水瀬伊織
今は機嫌がいいから、特別にこの伊織店長が淹れてあげるわよ。にひひっ。
北沢志保
ふふ、ありがとうございます。いただきます。
北沢志保
――――――
北沢志保
いつも思うんですけど。
水瀬伊織
ん?
北沢志保
店長と私の淹れるお茶って結構違いますよね。
北沢志保
香りとか風味とか、何かコツとかあるんですか?
水瀬伊織
コツ、ねぇ。慣れれば自然と身に付くわよ?
北沢志保
私は、出来れば今すぐ出来るようになりたいです。
北沢志保
いつか、ひとりぼっちになっても大丈夫なように……。
水瀬伊織
はぁ、殊勝な心掛けって大事よね。でも、今は置いておきなさい。
北沢志保
……。
水瀬伊織
はい、出来た。今日は特製ミルクティーよ。
水瀬伊織
今のあんたみたいに緊張して眠れない夜なんかには、特におすすめね。
北沢志保
あ、ありがとうございます。
水瀬伊織
それと……私にとってあんたも、このお店も、私の大切な宝物なの。
水瀬伊織
そう簡単には離さないんだから、覚悟しておきなさい?
北沢志保
……はい。
北沢志保
あの……店長。もしかしてさっき、夢で……
水瀬伊織
夢?
北沢志保
あ……いえ、なんでもないです。
水瀬伊織
そ。なら、冷めないうちに飲んじゃいなさい。
北沢志保
はい……。
北沢志保
……美味しいです。それに、温かい。
水瀬伊織
ま、当然よね。
北沢志保
ふふっ、そうですね。
(台詞数: 50)