水瀬伊織
『はい、プロデューサー』
水瀬伊織
「ああ……これは?」
水瀬伊織
『見てのとおり、オレンジジュースよ』
水瀬伊織
『私としたことがうっかり果汁3%を買っちゃったの。だから飲んでちょうだい』
水瀬伊織
「そうか、ならいただくよ」
水瀬伊織
「ところで、100%のオレンジジュースは買えたのか?」
水瀬伊織
『えっ? あ、それは……ほら、自販機に無くてっ』
水瀬伊織
「奇遇だな」
水瀬伊織
「俺もうっかり100%を買っちゃってさ。はい、これ」
水瀬伊織
『ふん、何よそれ』
水瀬伊織
『……ありがと』
水瀬伊織
「それにしても、神社に来たがるなんて珍しいな」
水瀬伊織
『意外かしら? ま、無理もないわね』
水瀬伊織
『でもね、神様に言ってやりたい事があったの。ちょうど良い機会だと思ったのよ』
水瀬伊織
「何てお願いしたんだ?」
水瀬伊織
『私は私たちの力で頂点に立つ。水瀬ではなく、水瀬伊織として』
水瀬伊織
『だから余計な手出しをしないで、って言ってやったわ』
水瀬伊織
「そうか」
水瀬伊織
『何か言いたげね』
水瀬伊織
「俺が訊くのも変だけど……」
水瀬伊織
「どうしてそこまでアイドルになりたがる?」
水瀬伊織
『別に。最初は何でも良かったのよ』
水瀬伊織
『ただ、いつもパパの言いなりで、お上品に腰かけて』
水瀬伊織
『そんな時、テレビに映ってたの。名前も知らないアイドルのライブ映像』
水瀬伊織
「憧れたのか?」
水瀬伊織
『ちょっと違うわね』
水瀬伊織
『その子、歌もダンスもダメダメだった。必死すぎるの』
水瀬伊織
『実力がないから自信がない。自信がないから追い込まれる』
水瀬伊織
『私ならもっとうまくやれる、あのステージは私にこそ相応しいって思ったのがきっかけね』
水瀬伊織
「ひどい言われ様だな」
水瀬伊織
『ねえ、私思うの。夢は授けるものじゃない。まして上から与えるものでもない』
水瀬伊織
『夢はね、誰にだって初めから存在しているのよ』
水瀬伊織
『同じ夢を持つ人間に触れた時、ようやく気付く。ああ、あそこに私がいる、って』
水瀬伊織
「だから伊織は今、夢を照らす側にいる」
水瀬伊織
『ええ。でも上手くいきすぎて、たまに不安になるのよ』
水瀬伊織
『あの日テレビで見た景色が目の前に広がってるの。まるでおとぎ話みたいに』
水瀬伊織
『いつか私も、元の世界に帰る日が来るのかしら』
水瀬伊織
「伊織はアイドルになったこと、後悔してるのか?」
水瀬伊織
『そんなわけないでしょ』
水瀬伊織
「だったらこっちが現実でもいいんじゃないか」
水瀬伊織
『はぁ? そんな話じゃな──』
水瀬伊織
「少なくとも、伊織にとっては……本当のことだろう?」
水瀬伊織
『……理屈になってないわよ』
水瀬伊織
「なあ、伊織」
水瀬伊織
「伊織の夢は、俺が支える。叶えられるかは分からないけど、力になる。だから──」
水瀬伊織
「迷わず、突き進んでくれ」
水瀬伊織
『……バカ、叶えるって断言しなさいよ』
水瀬伊織
『私はアンタを信じてるから』
水瀬伊織
「……ああ」
水瀬伊織
「ありがとう」
(台詞数: 50)