水瀬伊織
プロデューサーが呼び出しって言うから来てみたら。何の用よ?
二階堂千鶴
申し訳ありませんわ。ですが、どうしても聞きたい事があったもので。
水瀬伊織
どうせやよいもアンタの差金でしょ?理由なら全部喋ったわよ。
水瀬伊織
ま、どうしてもというなら好きにしたら?1人反対したって仕方無いし…
二階堂千鶴
伊織。あなたはわたくしが水瀬家に嫁ぐ事が嫌なのですか?
二階堂千鶴
それとも、二階堂千鶴で無くなる事が嫌なのですか?
水瀬伊織
何よそれ?意味分かんないわ。同じ事じゃない。
二階堂千鶴
あなたは賢いですもの。お分かりになるのではなくて?
水瀬伊織
分かるわけないでしょそんなの!呼び出しておいて訳わかんない事言わないでよ!
二階堂千鶴
伊織。わたくしは真面目に聞いているのです。
水瀬伊織
…後者よ。
水瀬伊織
お兄様がどれだけ優秀な人か、アンタも大体は分かるでしょ?
二階堂千鶴
ええ、たしかに。
水瀬伊織
下の兄さんもそう。どちらもとっても優秀な人。どちらも水瀬家の最高傑作だなんて言う人もいる。
水瀬伊織
私はね。そんな二人の兄を持つ妹、という存在でしかなかった。
水瀬伊織
私はあの家では「水瀬伊織」ではなく「水瀬の娘」「傑物達の妹」なのよ。どんなに頑張ってもね。
水瀬伊織
私自身の事なんて、誰も気にしてない。求められるのは妹という立ち位置に相応しい振る舞いだけ。
二階堂千鶴
あなたはそれで、アイドルになろうとしたんですの?
水瀬伊織
兄達に出来ない私にだけ出来る事が無いかって必死に探した。こんな事しか思いつかなかったけど。
水瀬伊織
私自身を評価してくれるファンが出来た事は、本当に嬉しかったわ。友達も出来たし。
水瀬伊織
それに…手のかかる妹のようでいて、でもいつも皆をフォローしてくれる姉のような存在もね。
水瀬伊織
でも、その姉のような人は今、自分自身を評価してくれる世界からいなくなろうとしてるわ。
水瀬伊織
お金持ちの妻としてしか見てもらえない世界に行こうとしている。
二階堂千鶴
…
水瀬伊織
アンタなら多分上手くやれると思う。お父様はアンタを気に入ってる。親戚はうるさいかもだけど、
水瀬伊織
そういうのはあんたなら努力して乗り越えていけると思うわ。けどね?
水瀬伊織
そうやって必死に努力してたどり着くのは「水瀬家の長男の嫁」という立ち位置でしかない。
水瀬伊織
今まであんたがやってきたアイドルの二階堂千鶴は、二度と必要とされなくなるの。
二階堂千鶴
…
水瀬伊織
…一度だけ言ってあげる。感謝しなさい?
水瀬伊織
千鶴、アイドルを続けて!私達の前から、いなくならないで!
水瀬伊織
あんたが今まで私達とやってきた事を、捨てないで。お願いだから。
二階堂千鶴
伊織…
水瀬伊織
言いたい事全部言ったら、スッキリしたわ。忘れて頂戴。私も忘れるから。
二階堂千鶴
…忘れられるわけ、ないじゃありませんの。
水瀬伊織
どのみち、もうすぐお兄様が日本を離れるわ。返事、するんでしょ?
水瀬伊織
ここで断ったら、もう二度と会えなくなるわよ。妹のワガママなんて忘れてくれていいの。
二階堂千鶴
ですけど…
水瀬伊織
いいからいいから。この際、本物のセレブになっちゃいなさいな。案外似合うかもよ?
二階堂千鶴
ちょっと!?どういう意味ですの、それは!
水瀬伊織
それじゃね!あと、引退ライブの台詞、早目に考えときなさいよ?
二階堂千鶴
あ、ちょっと!
二階堂千鶴
…
二階堂千鶴
(続く)
(台詞数: 44)