水瀬伊織
「そろそろかしら……」
水瀬伊織
アタシは今、人を待っている。
水瀬伊織
遠い昔に結ばれた、最愛の人を。
水瀬伊織
遠い昔に離ればなれになった、愛する夫を。
水瀬伊織
アタシ……水瀬伊織は、物心ついた時から、ある夢を見るようになった。
水瀬伊織
悲しい。とても悲しい夢。
水瀬伊織
一度は結ばれながらも、病によって瞬く間に引き裂かれてしまう、二人の夢。
水瀬伊織
繰り返し、繰り返し、同じ夢を見る。
水瀬伊織
まるで、忘れてはならない大切な事を、思い出させるように。
水瀬伊織
そして、アタシは思い出した。
水瀬伊織
アイツに告白した時の事。アイツにキスした時の事。
水瀬伊織
アイツと初めて結ばれた夜の事。そして……
水瀬伊織
最後に、アイツにビデオレターと、シャルルを遺した事を。
水瀬伊織
最初は夢だと思った。でも、これは夢なんかじゃない。
水瀬伊織
全て本当にあったこと。遠い昔の記憶なのだと、本能で感じた。
水瀬伊織
それから、アタシは待ち続けた。アイツと初めて出会う、今日という日を。
水瀬伊織
胸が高鳴る。鼓動が速くなる。早く、アイツの顔が見たい。
水瀬伊織
でも、同時に不安な事もある。
水瀬伊織
アイツは、思い出しているのだろうか?覚えているのは、アタシだけなのではないか?
水瀬伊織
………何を弱気な。アタシらしくもない。
水瀬伊織
「その時は……アタシの魅力で、また振り向かせるだけよ。」
水瀬伊織
アタシがそう呟いた時、近づいてくる足音に気付いた。
水瀬伊織
ああ……初めて聞く、けれど懐かしい音。
水瀬伊織
アタシが顔を上げると、そこには………
水瀬伊織
優しい瞳、穏やかな笑顔。記憶のままの彼の姿が、そこにあった。
水瀬伊織
嬉しい。また会えた。涙が滲んでくる。
水瀬伊織
でも、
水瀬伊織
でも、彼の口から出た言葉は
水瀬伊織
『はじめまして』
水瀬伊織
わかっていた。覚悟していたはずだ。この可能性を。
水瀬伊織
それでも……悲しくて涙が出そうになり、下を向く。
水瀬伊織
『突然だけど、プレゼントがあるんだ。』
水瀬伊織
顔を上げたアタシは、渡された小包を、促されるままに開けてみる。中には……
水瀬伊織
「シャルル………!」
水瀬伊織
古くなり、でもしっかりとしたシャルル。あの時遺した、アタシの形見の、シャルル。
水瀬伊織
一目見ただけで、ずっと大事にされていたのがわかった。
水瀬伊織
嬉しさのあまり、彼の胸に飛び込んだ。
水瀬伊織
「ずっと……ずっと、大事にしてくれていたのね。シャルルのこと。」
水瀬伊織
「ありがとう……。凄く、嬉しいわ………っ!」
水瀬伊織
覚えていてくれた。思い出してくれていた。アタシの事を。
水瀬伊織
「あのビデオレターでの、最後のお願い……。叶えてくれて、ありがとう……」
水瀬伊織
もう二度と、さよならなんて言わない。
水瀬伊織
だから代わりに、こう言うの。
水瀬伊織
「はじめまして、プロデューサー。
水瀬伊織
「はじめまして、プロデューサー。ううん、違うわね。」
水瀬伊織
「また会えたわね。
水瀬伊織
「また会えたわね。あなた……。」
水瀬伊織
「もう二度と、離れないんだからね?
水瀬伊織
「もう二度と、離れないんだからね?にひひっ♪」
(台詞数: 49)