女子、二人並び立てば 第11話『唯一』
BGM
風花
脚本家
遠江守(えんしゅう)P
投稿日時
2017-11-19 23:31:05

脚本家コメント
書き次第の更新です。

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最上静香
私は…私は、何を見ているの?
最上静香
四条貴音という人…私の知っている人は、ミステリアスで、上品で、浮世離れしてて…。
最上静香
銀の髪をうねらせ、冷たく燃える目でこちらを見据えているのは、誰?
最上静香
会場はすっかりえんじ色に染まって、私の青のサイリウムは、私の周辺にぽつぽつと見えるだけ。
最上静香
琴葉さんが単色の感情の激流なら、貴音さんは極彩色の感情の奔流。
最上静香
声量そのものは、私の方が大きいくらいなのに、貴音さんの歌声に包み込まれていくようで。
最上静香
私の声は、貴音さんの声の前に力を失くし、ばらばらと空中にほどけていった。
最上静香
それに、貴音さんでもこれ程の力は…これは、桃子と同じオーバーペース!
最上静香
そんな…!どうして、貴音さんが…!?
最上静香
桃子の場合は、理解できる。だって、そうでもしなければ、ジュリアさんには勝てなかったから。
最上静香
でも、貴音さんはそんなことをしなくても、私に十分勝てる実力があるはず。なのに…。
最上静香
まさか…桃子のために、優勝を諦めるっていうの…?
最上静香
優勝より、桃子の一人の方が、価値があるっていうの…?
最上静香
私だって、貴音さんや桃子に雪辱することを、ずっと思ってきたのに…。
最上静香
くっ…!そんなの、認められない!
最上静香
私はまだ終わらない!力のすべてを振り絞って、貴音さんに打ち勝ってみせる…!
四条貴音
…巻き返しをかけるつもりですか。その意気の強さは流石ですが、すべて封殺させていただきます。
四条貴音
この大会を三戦のつもりで練習し、体を慣らしてきたのが仇になりましたね。
四条貴音
一回ごとに全力を出すことができた先の大会のように、力を振り絞ろうとしても、難しいものです。
四条貴音
常識的なのは静香の方ですから、教訓となるものでもありませんが…。
四条貴音
最上静香。あなたの敗因は、『何も捨てなかった』ことです。
四条貴音
わたくしに雪辱を果たしたいのであれば、他を捨てて、その一点にすべてを集中するべきでした。
四条貴音
或いは、わたくしと桃子を敢えて初戦で戦わせ、疲弊したところを討つか…。
四条貴音
ジュリアとの戦いを選び、初戦を制することが出来れば、それも難しくはなかったでしょう。
四条貴音
他の勝負の流れ次第では、優勝まで手が届いたかもしれません。
四条貴音
しかし、あなたは目の前に広がる完璧な道筋に、足を踏み込んでしまいました。
四条貴音
わたくしを破り、桃子を倒し、決勝戦で琴葉と雌雄を決して、優勝という栄光に辿り着く。
四条貴音
すべてを手に入れることができて、真に、どらまちっく。この上なく美しい道筋です。
四条貴音
…いえ。そのように上手く事が進まなくても、それはそれで良かったのかもしれませんね?
四条貴音
決して挫けず、何度でも同じ高みを目指すのであれば、敗北も一つの糧となるのですから。
四条貴音
機会にも、才能にも恵まれ、真面目で努力家。夢に対して、純真一途。
四条貴音
そのようなあなたであれば、必ずやその糧を生かすことができるでしょう。
四条貴音
しかし、桃子は違います。
四条貴音
哀しいことに、彼女に『次』は、無いのです。
四条貴音
おそらく、再び桃子がこのような場に立つのは、良くて静香の年頃。数年を待たねばなりますまい。
四条貴音
あの子は、良くも悪くも出来過ぎました。
四条貴音
その実力が認められた一方で、強敵と見なされ警戒されるようになったのです。
四条貴音
最早、あの子に対しては、千早や美希、春香でさえも、一切油断などはしないでしょう。
四条貴音
奇襲も通じず、技術や才能こそ非凡なものであれど、その小さな体が枷となるのは避けられません。
四条貴音
どうしようもない力の差に、磨り潰されるような敗北の日々。それが、あの子の未来なのです。
四条貴音
桃子は、聡い子です。そのことには、とうに気付いているのでしょう。
四条貴音
ですが、前に進むことを止めませんでした。ただ、わたくしを恋い慕う、その一心で。
四条貴音
桃子がそうまでして作った唯一の機会を、どうして他人に譲ることなどできましょうか。
四条貴音
あなたが雪辱を誓ったように、わたくしも桃子と並び立つことを心に誓っています。
四条貴音
自分勝手はお互い様。ならば、後は我を通した方が勝ちというだけの話です。
四条貴音
最上静香。あなたには、脇に退いていただきます。
四条貴音
雪辱であれば、いずれ受けて立ちましょう。幾度でも、あなたの気が済むまで。
四条貴音
ですが、今回、この時だけは…。
四条貴音
全力を尽くしたけれど、敵わなかったと。次の機会には、さらに自分を高めて挑んでみせると。
四条貴音
…甘い慰めに酔いしれながら、敗北に沈みなさい。

(台詞数: 50)