四条貴音
わたくしは、第一試合の様子を、通路に設置してある『もにたあ』から、見つめておりました。
四条貴音
…成程、考えたものです。
四条貴音
観客を驚かせる意外性。ジュリアと正面から渡り合うに足る力強さ。
四条貴音
さらには、馬場このみと豊川風花のファンをも取り込むことにも、成功しました。
四条貴音
ジュリアも、最初の驚きから立ち直り、必死に巻き返しを図っていますが…。
ジュリア
やられた!モモのヤツ、こんな手を使ってくるなんて!
ジュリア
…いや、何をしても自由ってのは、聞いていたんだ。だったら、あたしが甘かったってだけの話か。
ジュリア
OK、クールにいこう…。最後に観客の心をつかんでいた方が勝ちなんだから、まだ取り返せる。
ジュリア
フーカやこのみ姉は強敵だけど、モモがあの二人を脇に置いてメインを張るのは、簡単じゃない。
ジュリア
地力はこちらが勝っているんだ。じっくりと構えて、モモが息切れしてきたところを、押し返す…!
四条貴音
…さて。ジュリアの思いはわかりますが、はたしてそのように上手く事が運ぶものでしょうか?
四条貴音
ジュリアと比べて己を卑下していますが、実は桃子の歌唱力も、なかなかのものです。
四条貴音
桃子の声質は、様々な音が行き交う舞台の上で磨かれた故でしょうか。
四条貴音
他人の声と混じり合っても良く通り、誰の耳にも心地よい。彼女の立派な長所でした。
四条貴音
…しかし。いいえ、やはりと言うべきでしょう。それだけではなく…。
四条貴音
わたくしの胸を、哀しみが満たしていきます。
ジュリア
…モモも結構粘るな。こっちだって全力なのに、なかなか追いつけない…!
ジュリア
っていうか、トバしすぎだろ?まだ、一回戦だろ?後のことなんて、考えてないのか…?
ジュリア
いや、待て…。そういうことなのか!?
ジュリア
まさか…あたしに勝てて、ヒメとやれれば、それだけでいいっていうのかよ!?
周防桃子
…バカなことしてるなんて、自分でもわかってるよ。
周防桃子
だけどね、ジュリアさん。こんなバカでもしなければ、桃子はジュリアさんに勝てなかった。
周防桃子
こんなことするよりも、正面からいって負けたほうが、よくやったって言われるかもしれないね?
周防桃子
『残念だったけど、がんばったね』『また今度があるよ』『桃子ちゃんは、これからだよ』って…。
周防桃子
…それに、何の意味があるっていうの!?
周防桃子
『今度』も『これから』も、『今』じゃない。その代わりには、なってくれない。
周防桃子
桃子の『今』は、ジュリアさんと同じで、たった一つのかけがえのない『今』なんだよ!
周防桃子
ジュリアさんと貴音さんの二人だけで、桃子の力がぜんぶ空になっても、かまわない。
周防桃子
貴音さんと、桃子がいっしょにステージに立つための『今』を手に入れるために…。
周防桃子
勝たせてもらうからね、ジュリアさん。
四条貴音
並々ならぬ気迫。それが桃子の歌声に、このみや風花にも負けぬ、まっすぐな芯を通していました。
四条貴音
挽回を狙うジュリアですが、確固とした存在感を示す桃子の歌声に、抗う術も無いようです。
四条貴音
…ああ、桃子。あなたは、また『捨てて』しまったのですね。
四条貴音
あの子が発揮している力は、この後に二戦を控えている者のそれではありませんでした。
四条貴音
最初から優勝を捨て、わたくしとの対決を最後と思い定めなければ、出来ないことです。
四条貴音
おそらくは練習も、体力も、気力も。わたくしと戦うための二戦に、全てを注ぎ込んだのでしょう。
四条貴音
この選曲にしても、そうです。
四条貴音
桃子は、先が見えない勝負よりも、確実に勝てる方を選んだに過ぎません。
四条貴音
勿論、それは決勝戦を捨て、その分の力を充当するという前提がありましたが…。
四条貴音
桃子の行動は、決して破天荒などではなく、ただ一言で『捨て身』と呼ぶものでした。
四条貴音
…しかし、わたくしは。わたくしだけは、それを愚かと言うことなど、できません。
四条貴音
他の者が一歩で済むところを、一歩半踏み込まねばならぬあの子の悲哀を、誰が知りましょう?
四条貴音
そして、桃子がこのような力を発揮するときは…いつだって、誰かの為なのです。
四条貴音
わたくしとの、約束。それを一途に、一心に。ただ、守ろうと。
四条貴音
今のわたくしに出来るのは、その姿を決して目を逸らさないで、見つめるだけです。
四条貴音
他人の幸いのために、己の身を百遍焼いても構わない気概を示す、その姿。
四条貴音
それは、桃子の守護星座のような、気高くも哀しい凛々しさでした。
四条貴音
…勝負は、決しました。もにたあに映るさいりうむの色が、如実に勝敗を表しています。
四条貴音
桃子の勝ち名乗りを最後まで見届け、わたくしは、自分のステージへと向かいました。
四条貴音
静香の待つ、激戦の場に。わたくしが、桃子と同じ場所に並び立つ、その為に。
(台詞数: 50)