女子、二人並び立てば 第4話『強敵』
BGM
REFRESH_RMX
脚本家
遠江守(えんしゅう)P
投稿日時
2017-11-03 10:34:25

脚本家コメント
書き次第の更新です。

コメントを残す
周防桃子
対戦相手が決まって、その他の打ち合わせも終わった後、桃子と貴音さんは、あの場所に来ていた。
周防桃子
貴音さんが桃子のために用意してくれた、劇場の外にある秘密のスタジオに。
四条貴音
「話は通しておきました。ここは、桃子が使ってください。」
周防桃子
そう言って、貴音さんは桃子の手に、スタジオのカギをわたしてくれた。
周防桃子
「…貴音さんは、どうするの?」
周防桃子
桃子の疑問に、貴音さんは少し笑って。
四条貴音
「一応、わたくしたちは敵同士なのですから、同じ場所で練習することはできませんよ。」
四条貴音
「ご心配なく。わたくしは、他の場所にも伝手がありますので。」
周防桃子
「…そうなんだ。だったら、ありがたく使わせてもらおうかな。」
周防桃子
もちろん、後でお兄ちゃんか小鳥さんに言って、ここのお金は経費で落としてもらうけど。
周防桃子
…それにしても、貴音さんには余裕がある。桃子の時とはちがって、今回は自分も出場者なのに。
周防桃子
その平常心が不思議に見えて、桃子は少し探りを入れてみた。
周防桃子
「みんなけっこうギスギスしてたけど、貴音さんはいつも通りなんだね?」
周防桃子
貴音さんは、それを聞いてもおだやかに。本当に、おだやかな顔のままで。
四条貴音
「いえ。わたくしとて、鋭く荒々しい感情を、心の鞘に納めているに過ぎません。」
四条貴音
「…いざ、それを抜いたときには、相手を一刀両断する心づもりですよ。」
周防桃子
桃子を見すえながら。その針のような言葉に、ぞわりと鳥肌が立った。
周防桃子
この人は、きっと桃子にもそうするって確信と、そうしてもらえるってうれしさに。
周防桃子
やっぱり、貴音さんはすごい。やさしさも、きびしさも、どこまでも桃子に真剣だった。
四条貴音
「…どうやら、少し話し過ぎたようですね。」
周防桃子
貴音さんは、さっきのすごみがウソのような、照れくさそうな表情になって。
四条貴音
「近くに居るとは、よく見えるということです。」
四条貴音
「これ以上手の内を見られぬように、わたくしは退散するといたしましょうか。」
周防桃子
そして、そのままこちらに背を向けて、入口の方に…。
周防桃子
「…あっ!そうだ!」
周防桃子
そういえば、貴音さんにはまだ聞いておくことがあった。
四条貴音
「…何か?」
周防桃子
立ち止まった貴音さんに、桃子は疑問として残っていたことを問いかけてみる。
周防桃子
「静香さんが『難しい』って、どういう意味?」
周防桃子
静香さんは前よりぐんと成長してるけど…ジュリアさんより飛びぬけて上とまでは思わない。
周防桃子
だけど、貴音さんはジュリアさんではなく、静香さんの方が強敵だと思っているみたいだった。
四条貴音
「…難しいというのは、静香が一度桃子に負けているからですよ。」
四条貴音
「静香は、あなたより実力が上であるという強敵でありながら、雪辱に燃える難敵でもあります。」
四条貴音
「なりふり構わず、勝利を貪欲に求めてくる相手は、恐ろしいものです。」
四条貴音
「それに比べて、ジュリアはただの強敵でしかありません。」
周防桃子
…なるほどね。そう考えれば、たしかに静香さんは怖い相手かもしれない。
四条貴音
「…もっとも、わたくしの見立てによれば、ジュリアの方がわずかに実力は上かと思いますが。」
周防桃子
付け加えたその言葉に、笑ってしまった。見方を変えれば、桃子が強敵を押し付けられたんだって。
周防桃子
まあ、それも貴音さんの作戦ってやつだから、桃子がどうこう言えることじゃないよね。
四条貴音
「それでは、お暇いたします。大会が終わるまで、わたくしがここを訪れることもないでしょう。」
周防桃子
「うん、わかった。桃子のステージ、楽しみにしててね。」
四条貴音
「はい…。桃子、ご武運を。」
周防桃子
そして、あっさりと。桃子と貴音さんは、別れのあいさつをした。
周防桃子
べたべたと別れをおしむ甘さはいらない。だって、もう一度出会う場所は、決まっているから。
周防桃子
…貴音さんがいなくなって。桃子は、自分に気合を入れなおした。
周防桃子
「よし…やるよ!」
周防桃子
今回は時間もあるけど、やることは、それ以上にたくさんある。
周防桃子
作戦も立てて、練習もして、心も体もパーフェクトな状態にもっていって…。
周防桃子
…それでも。みんなが強敵で、自分が勝つビジョンなんて、まったく見えてきてくれない。
周防桃子
そんないつも通りの、桃子の戦いだった。

(台詞数: 50)