最上静香
「正しい…?」
最上静香
体を壊すような力に、正しい使い方?貴音さんが何を言っているのか、私にはわからない。
最上静香
琴葉さんに対抗するために、私に同じことをさせようとするのであれば、断るつもりだったけど…。
最上静香
くわしく聞いてみる必要があるかもしれない。そう思い直して、話の続きを待った。
四条貴音
「ところで、この話の続きを聞かせたい者が、もう一人いるのですが…。」
最上静香
と、貴音さんがつぶやいたとき、物置部屋のドアが開いた。
所恵美
「貴音。ここにいるの?」
最上静香
部屋に入ってきたのは恵美さん。中にいる私と目が合って、驚いた顔になる。
所恵美
「静香…?琴葉の話をしに来たのに、なんでここに静香がいるのさ?」
最上静香
そんなことは私だって知るわけがないので、視線で貴音さんに説明を求めた。
四条貴音
「結局は、同じ話になるからですよ。琴葉の『限界を超える力』の正しい使い方…。」
四条貴音
「それは、静香にとっては新たな力となり、恵美にとっては琴葉を救う鍵となるのですから。」
最上静香
…なるほど。『正しい使い方』を覚えれば、琴葉さんも大丈夫ということなのね。
最上静香
貴音さんの説明に、恵美さんが目の色を変えていた。
最上静香
恵美さんは琴葉さんの親友だから、きっと藁にもすがる思いでいるのだろうと、想像はつく。
四条貴音
「さて、『限界を超える力』…ここは、『超越』とでも呼びましょうか。」
四条貴音
「『超越』には多大な苦痛が伴います。それは、人体が己自身を保護するための安全装置。」
四条貴音
「常人はその苦痛に耐えきれず、限界まで力を出すことすら稀なものです。」
最上静香
「でも、琴葉さんは…超えてしまった。」
四条貴音
「そうですね…。苦痛に耐えながら『超越』へと辿り着きました。」
最上静香
貴音さんが、ふっとため息をつく。
四条貴音
「苦痛など、本来は不要であるというのに…。」
最上静香
…え?
所恵美
「…はぁ!?」
最上静香
恵美さんが驚き声を上げる。私も、同じ気持ちだった。
所恵美
「いや、待ってよ。その『チョーエツ』ってのをするから、痛くて苦しいんだよね?」
所恵美
「それなのに、不要ってどういうこと?」
最上静香
恵美さんがまくし立てても、貴音さんはまったく動じないで。
四条貴音
「苦痛を消す、或いは和らげる方法があるのですよ。」
四条貴音
「琴葉を痛めつけているのは、限界を超えたことによる体の負担よりも、その苦痛。」
四条貴音
「苦痛に耐えるためにさらに心身を消耗させる、まさに悪循環です。」
最上静香
なるほど、つまり…。
最上静香
「苦痛を感じないようにしながら『超越』をする。それが正しい使い方というわけですね?」
四条貴音
「その通りです。」
最上静香
貴音さんが私の答えを聞いて、うなずいた。
四条貴音
「無論、体に負担をかける事は変わりませんが、それを大幅に減らすことができるのです。」
四条貴音
「濫用は避けて、十分に休息を取るのならば、問題なく回復する程度には。」
最上静香
…話を聞いて、何というか複雑な気持ちになった。
最上静香
そんなことができるのに、琴葉さんは一人で想像を絶する苦痛に耐えているのかと。
最上静香
あれ…?でも、ちょっと待って。
最上静香
なんで貴音さんは、琴葉さんにそれを伝えなかったの?
最上静香
この場に琴葉さんではなくて、恵美さんが来ている理由は何?
最上静香
「…琴葉さんは、それを知っているんですか?」
最上静香
湧き出た疑問を口にすると、恵美さんもハッとして貴音さんを見る。
最上静香
私たちが見つめる中、貴音さんの口から出た言葉は…。
四条貴音
「教えてはおりません。そして、琴葉が知っても何の意味もありません。」
四条貴音
「それを為すには、今の琴葉には、足りないものがあるのです…。」
最上静香
「足りないもの?それは…?」
最上静香
引き込まれるように尋ねる私に、貴音さんはまたしても思いがけない言葉を口にした。
四条貴音
「…それは、愛です。」
(台詞数: 50)