ReRise第21話『晩夏の斜陽』
BGM
想いはCarnaval
脚本家
遠江守(えんしゅう)P
投稿日時
2017-04-17 00:02:52

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最上静香
野々原さんと入れ替わりで、後攻のエレナさんが姿を現した。
最上静香
少し間を空けただけで、MCは無しで歌に入るようだけど…調子が悪いのかしら?
最上静香
私のそんな考えは、イントロが流れ出すとすぐに打ち消された。
最上静香
これは…『想いはCarnaval』ね。
最上静香
たしかに、この曲の雰囲気なら、下手なMCを入れない方が良いかもしれない…。
島原エレナ
『夏の香りに誘われて 裸足で駆ける ラビリンス 手招いたあなたを 追いかける』
最上静香
…その歌い出しだけで、私の背筋がぞくりときた。
最上静香
もちろん、これがエレナさんの持ち歌であることは知っていたし、歌う姿だって何度も見ている。
最上静香
でも、エレナさんがここまで感情を込めて歌ったのは…初めて見た。
島原エレナ
『妹のような存在と 軽く口にしないで ごめん 未来まで待っていられない きちんと答えて』
最上静香
まるで、掴んだその腕の皮膚に爪が食い込むような。そんな情念を感じさせる歌声。
最上静香
普段のエレナさんは、ラテン調の情熱的なダンスで、それを表現していたけど。
最上静香
ほとんどその場から動かないで、感情を込めて切々と歌い上げる姿が、私に連想させるのは…。
最上静香
私や紗代子さん、と言うよりは…琴葉さん。
最上静香
エレナさんもまた、自分のスタイルを変えて挑んできた。
島原エレナ
『本当の気持ち見せてよね ワタシ覚悟はできてるの YESなら抱きしめて 満ち引きは最高潮』
最上静香
情熱的なフレーズを紡ぐ歌声に混じるのは、愁いのニュアンス。
最上静香
そこから生み出される切なさが、聞いている人の心を打つ。
島原エレナ
『やがて身を焦がし 灰となる前に ワタシを救って』
島原エレナ
『Te amo!』
最上静香
恋の歌では何万回も歌われている『愛してる』にも、これだけの深みと幅が出るのね…。
最上静香
それは同時に、エレナさんの感情の激しさと細やかさを表しているようで。
最上静香
まるで綾織り模様のように、強さと繊細さが絡み合って、複雑なハーモニーを奏でている。
最上静香
いつしか私も、そしておそらくは観客も、まるで酔いしれるように歌に聴き入っていた。
島原エレナ
『想いはCarnaval あなたがあふれて止まらない』
島原エレナ
『朝まで踊りましょ ホットなパーティーがはじまる』
最上静香
…歌が終わった。
最上静香
心にしみる歌とはまさにこのことで、観客席からも惜しみない拍手が湧き起こる。
四条貴音
「月も太陽も、星々も。時に応じてその容貌を変えるもの…。」
四条貴音
「普段のエレナが中天にある春の太陽とすれば、今のエレナは晩夏の斜陽。」
四条貴音
「これもまた、偽らざるエレナの一面と言えましょう。」
最上静香
…たしかに。エレナさんが、心の中に思いがけない熱量を秘めている人だと、よくわかった。
最上静香
あっ…。投票が始まったみたいね。
最上静香
今回の野々原さんとエレナさんとの対決は、蓋を開けてみれば、かなりの好勝負だった。
最上静香
会場を盛り上げた野々原さんと、魅せたエレナさん。
最上静香
対照的で、それぞれの良さが光ったように思う。
最上静香
「貴音さんは、どちらが勝つと思いますか?」
四条貴音
「五分五分。わたくしには、それ以上確たることは言えません。」
最上静香
私も、貴音さんと同意見。だとすれば、観客の好みという誤差で勝負が決まる…。
最上静香
スクリーンに、結果が映し出された。
最上静香
野々原茜、67票。島原エレナ、73票。
最上静香
これもまた接戦だったけど、勝ったのはエレナさん。
最上静香
野々原さんは…残念ね。一度、ステージで対決してみたかったな…。
最上静香
でも、そんな感傷に浸ってばかりもいられない。
最上静香
これで4強が出そろった。私、琴葉さん、エレナさん、瑞希さん。
最上静香
準決勝は誰と当たっても、紗代子さんに勝るとも劣らない相手ばかり。
最上静香
私のこれまでとこれからをすべて出し尽くしたとしても、どこまで立ち向かえるか…。
最上静香
それでも、後悔するようなことだけは絶対にしないと、私は心に決めている。
最上静香
その気持ちひとつを胸に抱いて、最後まで戦い続けてみせる。
最上静香
自分の心がこれまでになく冷静であるのを確かめて、私はレッスン室へと戻った。

(台詞数: 50)