最上静香
貴音さんの言葉の意味について考えている間に、今度は後攻の奈緒さんがステージに現れた。
横山奈緒
『みなさん、こんにちはー!大阪の星、横山奈緒です~!』
最上静香
軽妙なMCを見る限りは、いつも通りの奈緒さんのように見える。
最上静香
手堅くソロ曲を歌えば勝てる試合だから、安心しているというところがあるのかもしれない。
最上静香
さて、奈緒さんはどちらの曲を歌うのかしら…。
横山奈緒
「今日は私の歌で盛り上がっていってな~!」
横山奈緒
「いっくでー!『待ち受けプリンス』!」
最上静香
…思わず、耳を疑った。
横山奈緒
『LET'S GO! DANCE!×5 CHUー!』
最上静香
間違いない。これは『待ち受けプリンス』だけど…。
最上静香
これだって奈緒さんの持ち歌じゃない。やっぱり『その他』の扱いの歌になる。
最上静香
どうして、この歌を?ソロ曲を出せば、瑞希さんに対して有利になれたのに…。
最上静香
…あっ!
最上静香
ようやく、私の頭の中で理解が追いついた。
最上静香
たしかに、自分だけがソロ曲を温存しようとしても、そこで負けてしまえば意味は無い。
最上静香
でも、二人が合意の上でソロ曲を温存したとすれば…この戦術は成り立つことになる!
最上静香
8人のトーナメントだから、試合数はたった3回しかない。
最上静香
一回戦は温存して準決勝をソロ曲で勝ち上がれば、決勝まで、簡単にたどり着けるんだ…。
最上静香
やられた…!
最上静香
頭に血を上らせた私の手に、強い感触があった。
最上静香
見てみれば、貴音さんが私の手を抑え込むように、自分の掌を重ねている。
最上静香
…そうね。一瞬冷静さを失ってしまったけど、今はライブの最中。
最上静香
ひとまず気を静めて、私は奈緒さんのステージに集中することにした。
横山奈緒
『HEY,CUTE GIRL! お迎えに来たぜ!』
最上静香
コミカルに歌い上げる曲調は、奈緒さんにぴったりの歌だった。
最上静香
リズム感のあるダンスも、良く似合うと思う。
最上静香
何より、大人数でワイワイやる曲を一人で盛り上げることができるのは、奈緒さんならでは。
最上静香
意外性は…そこまでないけれど。
横山奈緒
『あなたとのCHU ここでCHU 踊りましょう 輝いて』
最上静香
会場も、さっきの瑞希さんとのパフォーマンスとはまた違った盛り上がりを見せている。
最上静香
ただ、少し辛い目で見れば…。
最上静香
盛り上がるには盛り上がっているけど、ハジける感じが無いというか…。
最上静香
奈緒さんには珍しく、大人しさを感じる気がするわね。
横山奈緒
『COM'ON PRINCE PRINCE! IT'S TIME TO DANCE YA』
横山奈緒
『LET'S GO!』
最上静香
…歌が終わった。
最上静香
会場から、拍手と歓声がステージに降り注ぐ。
最上静香
本選の8人に選ばれただけあって、ソロ曲ではなくても、二人ともクオリティは高かったわね。
最上静香
そして、投票の時間が終わり、結果がスクリーンに…。
最上静香
真壁瑞希、97票。横山奈緒、79票。
最上静香
瑞希さんが特に減点するところが無かったのに比べて、奈緒さんは引っかかるところがあった。
最上静香
その差かな、と思ったのだけれど…。
四条貴音
「…すべて、瑞希の掌の上でしたね。」
最上静香
私の耳に届いた貴音さんのつぶやき。
最上静香
そのただならない雰囲気に、私は思わずそちらを振り向いていた。
(台詞数: 45)