四条貴音
……静かですね。
四条貴音
言の葉が夜気に吸い込まれるようです。そうは思いませんか。
ジュリア
……ああ。
四条貴音
おや、声をかけない方が良かったでしょうか。
ジュリア
気にしちゃいないよ。
四条貴音
して、何故こちらへ。
ジュリア
……さあね。
四条貴音
つれない返答です。
ジュリア
悪い、あたしにも分からないんだ。
ジュリア
帰り道、西日が強くってさ。
ジュリア
沈んでいく夕陽に置いていかれるような気がして、追いかけて。
ジュリア
気付いたら、見たこともない真っ暗な土地だった。でもなんでだろうな。
ジュリア
ここだって思ったんだ。
ジュリア
あたしの求めてた夜はここにあるって。
四条貴音
……そうですか。
ジュリア
ヒメこそどうしたんだよ。
四条貴音
……ここで月を観ておりました。
四条貴音
耿耿と白く、空をくり抜いたかのごとく。雨が降ってはこうはいきません。
四条貴音
真、美しき夜です。
ジュリア
この辺りに住んでるのか?
四条貴音
いえ、遠いところですよ。
四条貴音
ですが夜は私の故郷と似ています。
四条貴音
月明かりの下でならどこへでも行ける。そう感じるのです。
ジュリア
……へえ。
四条貴音
そういう夜も必要なのではないですか。
ジュリア
誰の話だ?
四条貴音
貴女ですよ、ジュリア。
四条貴音
理由もなく逃げ出してしまいたくなる、そういう夜もあるからこそ。
四条貴音
真っ当に生きていけるのだと思います。
ジュリア
あたしの生き方は真っ当なのか?
四条貴音
苦悩しつつ生きるというのは──溺れながら呼吸を求め、もがく姿に似ています。
ジュリア
そんなに無様か。
四条貴音
ええ、とても人間的ですよ。
ジュリア
慰められてんだか貶されてんだか。
四条貴音
時にジュリア。満ち潮によって齎される高波を指す言葉があるのですが……。
ジュリア
……津波?
四条貴音
海嘯。海がうそぶく、と書きます。
ジュリア
はは、ヒメの話はよく分からねえや。
四条貴音
特段の意味はありませんよ、ただ。
四条貴音
海も正直なばかりではないということです。
(台詞数: 40)