周防桃子
…決勝戦の次の日。
周防桃子
桃子は、貴音さんとあの秘密のスタジオで会っていた。
周防桃子
もう練習はする必要はないけど、二人で集まるならここだと思ったから。
周防桃子
床にすわって、ただ思い出話をするだけの時間が、ゆっくりと過ぎていった。
周防桃子
…あれから。美希さんが歌い終ったあと。
周防桃子
小鳥さんの声で、決勝戦の投票はしないというアナウンスが流れた。
周防桃子
桃子が先にキケンしたから、その時点で美希さんが優勝していたってことになったんだって。
周防桃子
それに、お客さんたちは何かを言うこともなく。
周防桃子
それぞれが、満足げな顔のまま、会場を出て行ったのが印象的だった。
周防桃子
…ちなみに、そのあと桃子は社長さんに呼び出されて、思いっきり説教された。
周防桃子
まあ、下手をすれば大会がぶちこわしになってたかもしれないと思えば、仕方ないかな。
周防桃子
でも、その後で小鳥さんがこっそりと教えてくれた。
周防桃子
あの決勝戦を見た芸能関係者の間で、桃子は話題になっているんだって!
周防桃子
くわしくは教えてくれなかったけど、さっそくオファーのようなものも届いているみたい。
周防桃子
何はともあれ、今回のことで、桃子はまた1つ上のステージに進んだってことなのかな?
四条貴音
「…そういえば、今朝プロデューサーに会った際に、聞いた話なのですが。」
四条貴音
「早速ですが、今回の大会の成功を受けて、近々に第二回が開催されるようですよ。」
周防桃子
…そうなんだ。桃子は次は出れないと思うけど、大会が続けば、またチャンスがあるかもしれない。
周防桃子
「そういえば、お兄ちゃんが貴音さんにそれを話したってことは…。」
四条貴音
「はい。わたくしは第二回の出場者に内定とのお言葉をいただきました。」
周防桃子
「良かったね、貴音さん!」
周防桃子
…本当に良かった。心からそう思う。
周防桃子
貴音さんが、あのステージに立てなくてくやしい思いをしていたのを知っているから。
四条貴音
「…ただ、不満もあるのですが。」
周防桃子
その言葉に、えっと思ったその時。
周防桃子
貴音さんの顔が、いたずらっぽい笑いに変わって。
四条貴音
「どうやら、わたくしの一番戦いたい相手が、出場できないようなのです。」
四条貴音
「素晴らしき技術と鋼の精神力を持ち合わせ、人を惹きつける輝きを魅せる…」
四条貴音
「…わたくしの盟友にして、らいばるである、周防桃子が。」
周防桃子
…ああ。そんなふうに、桃子のこと、思ってくれるようになったんだ。
周防桃子
…うれしい。本当にうれしい。
周防桃子
でも、そんなことを口に出して言えるような桃子ではないので。
周防桃子
「…大丈夫だよ。貴音さんが勝ち上がって、なんなら優勝しちゃえばいいでしょ?」
周防桃子
「そうすれば、第一回の準優勝者と第二回の優勝者だもの。向こうが放っておかないよ。」
四条貴音
「成程。では、その期待に応えねばなりませんね。」
周防桃子
「うん。頑張って。そして、桃子の前に立った時には…。」
周防桃子
最高の笑顔で、桃子は宣言する。
周防桃子
「桃子が、全力で蹴散らしてあげるから!」
四条貴音
「ふふっ…。それはこちらの台詞、と申しておきましょうか。」
周防桃子
そして、二人で顔を見合わせて。笑って。
周防桃子
何度も、何度も。笑いあっては顔を見合わせたのだった。
周防桃子
…それから、しばらくして。
周防桃子
思い出話も一通り終わったところで、貴音さんが立ち上がりながら言った。
四条貴音
「わたくしはこれから用事がありますので、そろそろお暇させていただきますが…。」
周防桃子
貴音さんがどこからともなく取り出したのは…封筒?
四条貴音
「…これを。プロデューサーから預かっておりました。桃子への手紙とのことです。」
四条貴音
「一人で、ゆっくりと読むのがよろしいでしょう…。」
周防桃子
…桃子に封筒を渡すと、そのまま貴音さんは行ってしまった。
周防桃子
桃子はその封筒を開いて。中をのぞきこむ。
周防桃子
…そこには、折りたたまれた便せんがほんの2枚、入っているばかりだった。
(台詞数: 50)