四条貴音
お待ちしておりました…あなた様。
四条貴音
いいえ、何も仰らないでください。
四条貴音
きっと、あなた様がお尋ねになりたい事と、これからわたくしの申し上げる事は同じ筈。
四条貴音
ならば、わたくしの方から話すのが筋というものでしょう。
四条貴音
どうかそのまま、お聞きください。わたくしの…この罪を。
四条貴音
……。
四条貴音
わたくしが、桃子に介入したその理由。わたくしの目的。わたくしの心は…。
四条貴音
慈悲の心でも、義侠心でもなく…そうであれば、まだ救いがあったことでしょう。
四条貴音
…ですが、それはひとえにわたくし自身の為でした。
四条貴音
桃子が静香との試合に臨む前の日の事です。
四条貴音
わたくしがその場に居合わせたのは、何の意図も無い、ただの偶然でしかありませんでした。
四条貴音
しかし、寄る辺なく、報われぬ努力を重ねながら、己の心と体を傷めている桃子の姿を見たとき…。
四条貴音
わたくしは、そこに、かつてのわたくし自身の姿を見たのです。
四条貴音
『使命』の為に、ただひたすらに修練を重ねていた、幼き頃のわたくしの姿を…。
四条貴音
師は居ても、共に歩む者は居らず。愛を注いでくれる者は居ても、苦悩を理解する者は居らず。
四条貴音
それでも、己が背負いしものの重みと尊さを誇りに、屈する事も投げ出す事もありませんでした。
四条貴音
ですが、本当は辛くて、寂しくて、孤独で、そして誰かにそれを解って欲しかったのです…!
四条貴音
…きっと、そのような幼き頃の思いが、傷となって残っていたからでしょう。
四条貴音
気が付けば、わたくしは桃子に手を差し伸べていました。
四条貴音
明確な違反ではないとはいえ、試合の意図に反する事と知りながら、桃子に手を貸し。
四条貴音
わたくしが長き修練で得た技術を、惜しむことなく与え…。
四条貴音
あまつさえ、等しく大切な仲間である筈の、静香や春香を騙し討つ事さえも…。
四条貴音
何もかも自分の為であるからこそ、躊躇いも無くやってみせました。
四条貴音
結局、わたくしは桃子を抱きしめることで、幼き頃の自分を抱きしめようとしただけなのです。
四条貴音
一方、正道に戻るよう訴えた春香は、言葉こそ苦くとも、立派でした。
四条貴音
桃子のことを思いやったというならば、春香の方が余程それに相応しいと言えます。
四条貴音
少なくとも、自分を慰める為に桃子を利用した、わたくしに比べれば…。
四条貴音
……。
四条貴音
…これが、わたくしの罪、です。
四条貴音
皆が思うような深謀遠慮などは無く、ただただ弱くて愚かなわたくしが、招いたものなのです。
四条貴音
…そもそも、桃子の為にならない事をしているとは、誰かに言われるまでもなく解っていました。
四条貴音
それを、春香に糾弾されるまで、気付かぬふりをしていたのは、わたくしが絆されたから。
四条貴音
…思いもよらず、桃子と共に過ごす時間が、何よりも楽しく、充実していて。
四条貴音
あの子の喜ぶ顔が見たい。この時をずっと続けていたいと。そう思うようになったからでした。
四条貴音
…ですが、そのようなことが今更何の免罪符になるわけでもありません。
四条貴音
少なくとも、桃子にとっては、何の慰めにもならないでしょう。
四条貴音
ああ、桃子…。
四条貴音
きっと今頃は、心細さで押し潰されそうになっているのでしょうね。
四条貴音
優しく近寄って信頼を得ながら、最後に突き放したわたくしは、本当に非道い女でした。
四条貴音
最早、わたくしにはあの子に顔を合わせる資格すらありません。
四条貴音
ですが、あなた様…。
四条貴音
どうかわたくしを叱ってください。
四条貴音
そうと解っていながら、恥知らずにも…。
四条貴音
あの子の苦難を思うと、わたくしは、胸が張り裂けそうになるのです…!
四条貴音
ああ、桃子…!
四条貴音
桃子っ…!!
(台詞数: 46)