女子、三日会わざれば⑬『夕風』
BGM
夕風のメロディー
脚本家
遠江守(えんしゅう)P
投稿日時
2016-06-13 00:55:23

脚本家コメント
次回、このみ姉さんのライブパート。

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周防桃子
…しんどい。
周防桃子
貴音さんのレッスンが、あれほどきびしいとは思わなかったよ…。
周防桃子
それでも内容は充実していて、自分の練習はただ体をいじめていただけだって、良くわかった。
周防桃子
心までへとへとになって、貴音さんに息抜きとして連れてこられたのは、第一回戦の第三試合。
周防桃子
可憐さんとこのみさんの対決のステージだ。
周防桃子
先攻は、5番のボールを引いた可憐さん。ステージの上に立つ姿は…。
篠宮可憐
「み、みなさん!今日は、私たちのステージを見に来てくれて、ありがとうございます!」
周防桃子
MCでは少しつっかえるけど、オドオドしたところのない、堂々とした姿だった。
篠宮可憐
「わ、私、最後まで頑張りますから…み、見ててくださいね♪」
周防桃子
最後に。「えへっ」と可憐さんが笑うと、会場は大きくわいた。
周防桃子
はじらいと、照れのまじった、いたずらっぽい笑顔。思わず、見とれてしまうような。
周防桃子
ファンのみんなも、特に男の人なんかは、今ので骨抜きにされた人もたくさんいるんじゃない?
周防桃子
女の子の桃子だって、ドキっとしたもん。
周防桃子
…よし、あの笑顔は盗もう。いつか桃子もあれを自分のものにしてみせる。
周防桃子
可憐さんが笑顔1つで会場の心をつかんで、ステージは始まった。
周防桃子
静かなイントロが流れ出す。これは…『夕風のメロディー』。
周防桃子
可憐さんも、持ち歌を第一回戦で出してきた。
四条貴音
「昨日の桃子の試合は、皆にとって教訓となりました。」
四条貴音
「出し惜しみをすれば、負ける。それで持ち歌を温存するのは、かなりの冒険でしょう。」
周防桃子
貴音さんの言うとおり。どんな秘密兵器でも、温存して負けてしまえば意味がない。
篠宮可憐
『夕風運ぶ 黄昏メロディー 心をすませば ねぇ聴こえるでしょう』
篠宮可憐
『探してたの 求めていたの 昨日より 確かな夢が 胸(ここ)にある』
周防桃子
可憐さんの歌声が、会場にしっとりとしみてきた。
周防桃子
盛り上げる曲ではないけど、ファンはじっと耳をかたむけている。
周防桃子
コールで盛り上がるのも楽しいけど、こういう雰囲気だっていいね。
篠宮可憐
『光の匂い 君への想い ありふれた世界を染める』
篠宮可憐
『夢 愛 希望 出会い 私を抱きしめて もっと自由に 歩いてゆきたい』
周防桃子
勝負しているのだとは思えないくらい、穏やかな時間が流れていく。
篠宮可憐
『溢れる気持ち つのる願い 音に乗せて 歌おう 君の空へ どこまでも続くようにと』
周防桃子
自分に自信がないから、それを変えるためにアイドルになった可憐さん。
周防桃子
ステージに立つ身からすれば、引っ込み思案というのはマイナスなのはまちがいない。
周防桃子
でも、それでもけっして逃げ出さずに。一歩一歩前に進んで行って。
周防桃子
今ではこんなに堂々と、そしてたしかな存在感でステージに立っている。
周防桃子
可憐さんは、もともと見る人をひきつけるオーラがあった人。
周防桃子
弱点を乗りこえた可憐さんは、ひそやかだけどまぶしい、ステージの上のスターだ。
篠宮可憐
『感じていたよ 届いていたよ いつでも やさしい声が 耳(ここ)にある』
篠宮可憐
『そっと払った 涙の先で 待ちわびた明日に会える』
四条貴音
「グスっ…。」
周防桃子
…貴音さんは、「ARRIVE」で一緒だったから、特に思い入れが強いみたい。
周防桃子
やっぱり、可憐さんはすごい。ううん他の人も、静香さんや千早さんだって。
周防桃子
桃子は、こんな時だけど、自分がこの大会に出場できたことを感謝した。
周防桃子
ここに立って、見えた世界がある。そして、勝ち続けていけば、もっと新しい世界が見えてくる。
周防桃子
もしかしたら、そこにこそ美希さんと千早さんが見ていた光景が見えるのかもしれない。
篠宮可憐
『夢 愛 希望 出会い 私を抱きしめて もっと自由に 歩いてゆきたい』
篠宮可憐
『過去 未来 めぐりめぐる奇跡をつないで はるかな君の空へ』
篠宮可憐
『私は歌うの この声の限り どこまでも続くようにと―』
周防桃子
そして、歌が終わり。
周防桃子
ファンから、歓声はなかった。でも、その代わりに、温かい拍手が、いつまでも、いつまでも。
周防桃子
桃子も、可憐さんが準決勝の相手になる可能性も忘れて、自然と拍手していた。
周防桃子
ステージの上からファンに応える可憐さんの笑顔は、柔らかく、優しく、そして清々しかった。

(台詞数: 50)