周防桃子
…へとへとになりながら舞台袖にもどった桃子を、貴音さんが笑顔でむかえてくれた。
四条貴音
「おかえりなさい、桃子。真、良き舞台でしたよ。」
周防桃子
「うん、ありがと。」
周防桃子
もっと話したいことはあったけど、桃子はそこで話をやめた。
周防桃子
…今から静香さんのステージが始まる。そして、桃子の勝ちも負けも、ここで決まる。
周防桃子
ステージに上がった静香さんは、観客席におじぎしただけで無言。MCは入れないみたい。
周防桃子
そこへ流れ出すイントロ…これは『inferno』!
周防桃子
持ち歌を出してこない!だったら…。
周防桃子
でも、静香さんが歌い始めたその瞬間、桃子はその考えを捨てた。
最上静香
『冷めたアスファルト 人波掻いて モノクロのビル 空を隠した』
周防桃子
千早さんに負けないくらいの、きれいで伸びのある声は、体の中まで響くようで。
最上静香
『勝手な信号 標識の群れ せめてこの手で 貴方を描く』
最上静香
『嘆くセイジャが説けば すぐ抱きしめてくれた だけどどうして泣くの…?』
周防桃子
…すごい。自分の歌でもないのに、ここまで高めてきたんだ…!
最上静香
『全て 燃える愛になれ 赤裸に今焦がして 私が守ってあげる…』
最上静香
『全て 燃えて灰になれ それがこの世の自由か』
最上静香
『貴方が微笑むなら 愛じゃなくても 愛してる…!』
周防桃子
重い曲を迫力ある声で歌い上げたサビに、鳥肌が立つ。
周防桃子
…ううん、歌だけじゃない。
周防桃子
シャープで存在感のあるダンス。決意にあふれたきびしい表情は、この曲にマッチしている。
周防桃子
観客席のファンも、その迫力に飲まれたみたいに目を引きつけられていた。
周防桃子
すごいと感動する気もちと、桃子は全力を出したのに勝てないかもしれないという気もち。
周防桃子
その二つが頭の中でぐるぐるして、息苦しくなってきた。
最上静香
『絶対 ねえ忘れないで もっと熱くなれる』
最上静香
『この愛邪魔する者 例え貴方でも 許さない』
周防桃子
みんな静香さんの歌に聞き入っている。この場は静香さんの「世界」になっている。
周防桃子
…大丈夫。桃子は大丈夫。
周防桃子
美希さんと千早さんの二人で作り上げた世界は、桃子が自分を見失ってしまうほど大きかった。
周防桃子
そして、静香さんも、桃子をふき飛ばすような圧倒的な存在感で、自分の世界を出してきている。
周防桃子
それでも、はっきりと言える。桃子だって自分の世界を作ることができたんだって。
周防桃子
『MY STYLE! OUR STYLE!!!!』を歌った時…。
周防桃子
あの時の達成感、ファンの人たちとの一体感をおぼえているから、桃子はひるまず立っていられる!
最上静香
『全て 燃えて灰になれ それがこの世の自由か』
最上静香
『貴方が微笑むなら 愛じゃなくても 愛してる…!』
周防桃子
…そして、歌が終わった。
周防桃子
見ていたかぎりでは、一つもミスのない、本当にカンペキなステージ。
周防桃子
持ち歌を出した桃子にも負けないくらいのパフォーマンスで、ファンからの拍手がすごかった。
周防桃子
…これから投票が始まる。桃子も舞台袖から出て、ステージの上に立った。
最上静香
「…。」
周防桃子
静香さんがきびしい顔をしているのは、ぜったいに勝てるという自信がないんだと思う。
周防桃子
桃子の予想も同じ。本当にギリギリの勝負で、結果がどっちに転ぶかはわからない。
周防桃子
ほんの少しの「何か」で勝負が決まってしまうようなかんじがして、不安を止められなかった。
周防桃子
待つ間の時間が、心臓の音が、すごく、すごく長く感じる。
周防桃子
それでも、やがて時間はすぎて…投票が終わった。
周防桃子
桃子と静香さん、そしてファンのみんなもモニターを見て…。
周防桃子
「えっ…?」
最上静香
「嘘…!どうして…?」
周防桃子
静香さんのガクゼンとした声が聞こえる。桃子もおどろきでモニターを何度も見直した。
周防桃子
モニターに映し出された結果。周防桃子103票。最上静香79票。
周防桃子
ぎりぎりとは言えないほどの差をつけて、桃子の勝ちだった。
(台詞数: 50)