四条貴音
流星の如く、月の路を銀の汽車が駆けて往きます。
四条貴音
──この貴音、必ずや使命を果たして見せましょう。
四条貴音
──我が旅路の果てに、皆の輝かしい未来が訪れることを……確約致します。
四条貴音
そう強がって見せた臆病者を乗せて。
四条貴音
車窓より眺めた地上の花は、いずれも立派に咲き揃っておりました。
四条貴音
ほんの少し前の私であれば、感動を覚えたりもしたのでしょう。
四条貴音
ですが、その時は違いました。
四条貴音
花びらが風に舞う様、儚さを、まるで雪が散らばるようだと錯覚したのです。
四条貴音
春……それは別れの季節。
四条貴音
どれだけ美しく世界を彩ろうと……私にとって、悲しい季節に変わりはなかったのです。
四条貴音
───
四条貴音
夢見は、今は遠き始まりの日。
四条貴音
この季節になると途端に増す郷愁の念は、私の未熟さゆえでしょうか。
四条貴音
或いは虫の知らせ、とでも云うのでしょうか。
四条貴音
昨日、故郷より私の元へ一通の文が届いたのです。
四条貴音
【使命の段、真に見事。早々に帰還されたし。】
四条貴音
心の底から安堵し、感涙を禁じ得ませんでした。
四条貴音
そして……同時に恐れもしたのです。
四条貴音
『あいどる』として歩んだ四条貴音の物語。それが今、終焉を迎えようとしている事に。
四条貴音
元より『あいどる』とは使命の一環。
四条貴音
果たしたと認められた以上、執着する必要などないのですが……。
四条貴音
……。
四条貴音
心が揺れ動きます。
四条貴音
とはいえ、揺れる理由など分かりません。
四条貴音
しばらく悩んだ末、私は同封されていた切符と地図を手に、汽車へ乗ることを決めたのです。
四条貴音
深く、煌々とした月の照る夜。
四条貴音
車窓から地上を望む事なく、ただ黙して考えました。
四条貴音
己の心の形。未だ答えの見つからないまま、汽車は月明かりを往くのです。
四条貴音
────
四条貴音
民から盛大な歓迎を受け、私はようやく悲願である帰郷を為しました。
四条貴音
夜には、最早懐かしくもある家族の面々と、思い出話に花を咲かせました。
四条貴音
あいどる、歌、仲間、食べ物。……とても一晩では語り尽くせない程に。
四条貴音
そんな私の様子を見てか、妹はこう問うたのです。
四条貴音
『向こうに未練はないですか?』
四条貴音
未練……。
四条貴音
言葉は心の中で波紋を呼び、その輪郭をじわりと浮かび上がらせます。
四条貴音
「私は……」
四条貴音
「私は……使命を果たし終えたとは思っておりません」
四条貴音
「『あいどる』の頂とは……独りでは為し得ないものだと、気付かされました」
四条貴音
「向こうで出会った仲間達。彼女らの絆が、そう教えてくれたのです」
四条貴音
思い出を語る内に蘇る、記憶の断片。
四条貴音
それは四条貴音の始まりである、あの春の日まで繋がるのです。
四条貴音
「……桜、という花があります」
四条貴音
「春の季節に咲く、短命の花です」
四条貴音
悲しさに埋もれた雪花。
四条貴音
記憶の中の雪は溶け、かつての花は失われた色彩を取り戻します。
四条貴音
あの日、車窓から眺めた雪が舞う姿。
四条貴音
それは──爛漫に咲く桜花。
四条貴音
「あの花のように、一瞬すら誇れるような『あいどる』に私はなりたい……」
四条貴音
「……いいえ。四条貴音として、ならねばならないのです」
(台詞数: 50)