遭逢
BGM
月のほとりで
脚本家
親衛隊
投稿日時
2016-03-29 23:31:33

脚本家コメント
下手ですが好きなのです。こういうのが。

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四条貴音
祭壇に灯るは呪いの炎。
四条貴音
棺に眠るは、今宵降る災厄へと身を捧げる少女。
四条貴音
胸に刃を与えられ、穢れなき浄魂を餌とし、空へ帰す算段だと聞いております。
四条貴音
災厄とは飢饉、疫病、天災といった人間に仇なす害悪の総称。
四条貴音
餌は贄と称され、贄は送り人を一人選び、最期の時まで傍らに置くそうな。
四条貴音
即ち、送り人が贄に刃を与えるのです。
四条貴音
――今宵、贄は少女。
四条貴音
少女には親が有りませんでした。
四条貴音
父には病で先立たれ、母は少女が産まれてすぐ亡くなったそうです。
四条貴音
少女は幼いながらも落ち着いた雰囲気で、よく大人びた挙措も見受けられます。
四条貴音
これは独りで生きてきたが故でしょう。
四条貴音
私は少女に対して、まるで実姉のように接しておりました。
四条貴音
それは同情ではなく、共感。
四条貴音
そう、私も同じ境遇にあったのです。
四条貴音
――。
四条貴音
祭壇に灯るは祝福の炎。
四条貴音
棺に眠るは、今宵降る災厄へと身を捧げる少女。
四条貴音
たとえ親類、親友であろうと等しく供物に成り下がる日。
四条貴音
村の為来りは絶対。逆らおうものなら死よりも厳しい制裁が待っております。
四条貴音
――今宵、送り人は私。
四条貴音
夜に還る火柱を見つめ、静かに刻を待ちました。
四条貴音
そして正子、零。執行の時。
四条貴音
剣を構え、少女の左胸目掛け、突く。忌々しい儀式も寸刻で終わりましょう。
四条貴音
皆の目が集まり、微かに震える手。
四条貴音
せめて楽に。苦しめぬように。
四条貴音
一瞬の逡巡。目を瞑り、
四条貴音
私は――
四条貴音
私は――剣を地へと突き刺した。
四条貴音
誰が血を吸ってか、彼方此方錆びた剣は容易く折れる。
四条貴音
どよめき、混乱する観衆。遅れて怒声。しかし私は存外冷たく在れました。
四条貴音
迷いの秤を壊して――已む無し、後はひたすら進むのみと判断します。
四条貴音
即座に、少女を抱いて村から出る決意をしたのです。
四条貴音
暗い山中を縫う様にひたすらに駆けて、駆け抜けて。
四条貴音
少女を離さぬように、己は転ばぬように。
四条貴音
ただ遠く、遠くへと――。
四条貴音
――――――
周防桃子
「姉様」
周防桃子
「ほら、お星様が綺麗だよ」
四条貴音
煌々と月明かりを浴びながら、少女は両手を広げて空を仰ぎ見る。
四条貴音
住処を失い、人縁を失い、残る物など無いというのに。
周防桃子
「……素敵」
四条貴音
それですら、些事だと言わんばかりに純朴な笑みを浮かべて。
周防桃子
「姉様も、同じだよ?」
四条貴音
私も……。
四条貴音
成程。寂滅為楽とはよく言ったもの。
四条貴音
こうして互いに笑い合える。当たり前がなんと素晴らしきことか。
四条貴音
「これから……何処へと向かいましょう?」
周防桃子
「海がいい。あそこは狭くて鬱屈だったから、目一杯気分を晴らしたいな」
四条貴音
――ここに、新しい人生を謳いましょう。
四条貴音
いつか、私達が本当の姉妹になれる日が……来るやもしれません。

(台詞数: 50)